物語の主役が一人に固定されておらずある意味群像劇という作りになっている。だからといって物語の焦点がぼやけるわけでなく、独特の世界観にたっぷりと浸ることができた。いくつかの役が主役クラスの背景を背負っておりシーンごとに別の俳優さんの演技にジーンとくるという得難い経験ができました
劇団 | 劇団桟敷童子 | |||||
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題名 | その恋、覚えなし | |||||
公演期間 | 2018/11/27〜2018/12/09 | |||||
作 |
サジキドウジ |
演出 | 東憲司 | |||
出演 |
鈴木めぐみ:タケ(盲目の祈祷師・カンメサマ・一つ目) 大手忍:コマメ(盲目の祈祷師・カンメサマ・二つ目) 石村みか:ウタ(盲目の祈祷師・カンメサマ・三つ目) 板垣桃子:カイ(盲目の祈祷師・カンメサマ・四つ目) 松本紀保:ハル(女猟師・かつて神隠しに遭った女) 三村晃弘:達治(御影集落の杣人頭領) 新井結香:安子(達治の妻) 山本あさみ:すゑ(達治の母親) 柴田倫太郎:八兵衛(杣人番頭) 内野友満:満子(八兵衛の孫娘) 瀬戸純哉:小早川(杣人) 升田茂:八波(杣人) 深津紀暁:不知火(杣人) 稲葉能敬:佐七(杣人) 鳥越勇作:彦助(杣人) もりちえ:おぶん(彦助の姉) 川原洋子:福(おぶんの親戚・飯屋「おたふく」女将) 原口健太郎:猪熊甚五郎(隣町の医者) |
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劇場 |
すみだパークスタジオ倉(とうきょうスカイツリー)
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観劇日 | 2018/12/09(マチネ) |
目次
eplusの公演情報による紹介
儚く、切なく、狂おしく… 桟敷童子の恋物語 恋来来ら、夢来来ら
恋来来ら、夢来来ら
曇天の向こうに、彼岸花が揺れている。
そして遠くに赤く燃える紅葉の群れ…。
凍てついた身体がぎくしゃくと動きだす。
あそこに行けば、あの子の顔が思い出せそうな気がした。
あの子の名前が思い出せそうな気がした。恋来来ら、夢来来ら…
桟敷童子の新作公演
客演陣は彩り豊かな顔合わせ
題名もそうですし、上記の紹介文を読んでも、なんか切ない恋物語を想像して劇場に足を運びました
劇場内はいつものようにびっくりするような劇場空間。おおぉ、舞台装置はかわってないな。でも、恋物語とは桟敷童子の新境地だなぁと始まるまで思っていました。
楽日を観劇しているので、不要かもしれませんが、念の為
ここからはネタバレします
ほぼ虚構の世界観でありながらひしひしと伝わる現実感
メインキャラクター的な位置づけの「盲目の祈祷師」という存在
なんかそういう風習が本当にあったのかなとか、家に帰って色々調べましたが、どうやらほとんど虚構の世界のようですね。近いのは、歩き巫女という江戸時代まで中部地方あたりにあった風習と青森のイタコで、それを融合したような存在が「盲目の祈祷師・カンメサマ」だと思います
(歩き巫女は、熊本や福岡県の宗像あたりにも風習はあったみたいですが、盲目ということはなかったみたい)
創作なのかもしれないけど、なんかありそうな…という設定は、この劇団の舞台を見ていて感じる理由のない郷愁の感情を引き起こしてくれます
今回の舞台の時代設定である大正末期から昭和初期というのは、近代と前近代がまだ錯綜している時代で、この物語でも帝大出の近代科学の化身である医者(原口さん)と前近代のカンメサマが共存していることに芝居の背景としての面白みがあります
ま、民俗学とかサンカとかそういうのに元々興味があるから余計にそういうところに目が行くのかもしれませんが
ただ、芝居を見ている間中は、滅びゆく風習の代表のような盲目の祈祷師の物語を現実のことのように受け止めてしまう説得力がストーリーの中にきちんと織り込まれていたのはさすがでした
物語の主役が一人に絞れない
行く前は、客演の松本紀保さんを主役に据えるんだろうなと思っていましたが、見始めるととても一人に主役を定めて見ることができません
特に、てがみ座からの客演の石村みかさんの演技は、とても胸に迫るものがありました
- 昔自分を捨てた男への再会による感情の爆発
- 現状の自分ではどうしようもないことへの悔恨
- 情けなくも自分に今好きな女性との仲を壊さぬために頼み事をしてくる男への憤り
- それを受け入れ、その男の為に黙っておくことを決める覚悟
など本当にたくさんの感情がないまぜになっている状況を数少ないセリフと、盲目という設定のために封じられた目の演技を抜きに全身で表現するシーンは派手なシーンではありませんでしたが、僕的にはこの芝居の随一の見どころでした
見たことのない役者さんだと思いこんでいましたが、私が管理している「演劇感想文リンク」の石村みかさんの出演作のページを見ると僕は過去に2度拝見していました
2011年のサスペンデッズの「カラスの国」と2001年の野田地図の「贋作・桜の森の満開の下」
…すみません。覚えていません。でも、今回の舞台で強く印象に残りました
勿論、松本紀保さんも存在感がすごい
松本紀保さんの迫力ある演技にも圧倒されました
彼女の存在感については、劇団チョコレートケーキの「治天ノ君」で実感済みでしたが、今回のはぐれものの女猟師の役はキャラクター設定としては、治天の君とは真逆に近いものですが、それでも共通する存在感の厚さを感じました
猟師として獲物を狙うときの姿勢の安定感
視力を失ったときの全身全霊の慟哭
彼女が、演技を始めるとそこだけ重力が強くなっているような吸引力を発揮し、他の俳優の演技がかすみます
引くのかと思ったのに客演を喰う板垣桃子さん
配役表で、「盲目の祈祷師」の4番目に名前があったのを見て、正直「今回は強力女優陣の客演もあるし、前回主役だったから今回は引くのかな」とか思ったのですが、その想像は完全に裏切られました
最初から異質なキャラクターで、舞台をかき回しておきながら、要所要所で誰にもまけない活躍をして、物語を前進させるという器用な役回り
それでいて、里の同郷の男(稲葉さん)との間にある微妙な感情を表現する繊細な演技
シーンによっては、完全に客演の方を含め舞台上の他の役者を喰らっていて、面目躍如といった感じでした
僕は感情移入できるキャラクターが男女を問わず一人もいない舞台を見るのはとてもつらく感じるのですが、今回は感情移入をしやすいキャラクターがたくさんいて、とても見ていて幸せを感じることができる舞台でした
上記にかかなかったですが、ウタ(石村さん)とハル(松本さん)との間で、情けない男(多分モダンスイマーズに出てくる男たちくらい情けない)を演じた不知火役深津さんもいい感じでしたし、前作に続いてまたしても最後に死んでしまった大手忍さんも、儚いヒロインでした
本水を使った装置も圧巻
アングラの演劇を見ることが多いですし、本水を使った演出にもなれているつもりでしたが、室内の舞台でありながら池が設えられていて、天井から水が降ってくるという演出は見どころでした
装置の作り込みは、前回の翼の卵の方がしっかりしていたように思いましたが、池がある舞台上を器用に使いまわし、背景の一つだと思っていた水車が突然、物語の大事な役割を果たすなど、芝居と装置の融合度合いも気合が入っています。
結局、題名とか公演予告と内容にかなり違いがあったような….
文句じゃないです。不満でもありません。
ただ、題名や上記の予告の文章によって想像された物語とはかなりかけ離れていたように思います
確かに、愛憎劇的な部分はそここここにあったように思ったものの、それが主題ではなかったような気が…
とはいえ、かなり満足の行く舞台でした。来年は、結成20周年とのことで、なんと新作を3本上演予定とのこと。乗りに乗ってますね〜
今思えば、最初にこの劇団の舞台を見たのは、西新宿の小さな劇場でみた以下の作品。あれから、ずいぶん長く(とびとびですが)この劇団を見守ってきたなとちょっと感慨にふけったりしてしまいました
以上 劇団桟敷童子の「その恋、覚え無し」の感想記事でした
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