[劇評]劇団チョコレートケーキ「治天ノ君」@シアタートラム

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治天ノ君ポスター
さすがにほぼ無名だったこの劇団を一気にスターダムに押し上げただけのことのある『凄い』作品でした。
題材の卓抜さ、役者の役への集中度、そして松本紀保さん。
印象深い傑作でした。
明治から昭和にかけての歴史の重みを感じる事ができました。


劇団 劇団チョコレートケーキ
題名 治天ノ君
公演期間 2016/10/272016/11/06
古川健 演出 日澤雄介
出演 大正天皇嘉仁:西尾友樹
貞明皇后節子:松本紀保
明治天皇睦仁:矢仲恵輔
昭和天皇裕仁:浅井伸治
有栖川宮威仁:菊池豪
原敬:青木シシャモ
牧野伸顕:吉田テツタ
大隈重信:佐瀬弘幸
四竈孝輔:岡本篤
劇場 シアタートラム(三献茶屋)
観劇日 2016年10月30日(マチネ)

■物語

激動の明治・昭和に挟まれた『大正時代』。

そこに君臨していた男の記憶は現代からは既に遠い。
暗君であったと語られる悲劇の帝王、大正天皇嘉仁。

しかし、その僅かな足跡は、人間らしい苦悩と喜びの交じり合った生涯が確かにそこにあったことを物語る。

明治天皇の唯一の皇子でありながら、家族的な愛情に恵まれなかった少年時代。
父との軋轢を乗り越え、自我を確立した皇太子時代。
そして帝王としてあまりに寂しいその引退とその死。

今や語られることのない、忘れられた天皇のその人生、その愛とは?(劇団HPより)

■感想

■日本人の中に彼を知らないという人はほとんどいないはずだ。

しかし、いたという事実以上のことを知っている日本人もまたほとんどいないだろう。そういう不思議な存在がこの物語の主役、治天ノ君こと大正天皇嘉仁である
この主役設定だけでも脚本の卓抜さをうかがい知ることが出来るが、内容も凄い。

■たった9人の登場人物。

一人で複数の役をこなすことなく、たった9人の登場人物だけで、明治末期から大正、昭和に至るまでの歴史をかたる作劇力の高さにまずは感心した

三代の天皇陛下とその周りにいる人たち。大正天皇妃節子(さだこ)の目線で語られる物語は、時代を上ったり下ったりと目まぐるしいシーン切り替えがありながら、混乱も無く、暗転も利用せず淡々とすすんでいく。
その物語の中に出てくる9人には、それぞれに明確な想いと物語があり、一人として利己心に寄って動いているものがないにも関わらす、物語は悪い方へと転がり始める。

その様の描写がすばらしい。 脚本の出来の凄さに戦慄さえ覚えました。

■全ての登場人物の描写が素晴らしいが故に誰にでも感情移入できる作品

通常、僕は芝居を見るときに誰に感情移入できそうかを探します。
一人居ればいい方で、誰も感情移入できないなんて芝居もざらにあります

しかし、この芝居は、役者のうまさもあいまって、ほとんどの出演者に感情移入できてしまう凄さがありました。

そのため、物語の終盤に対立する二人(のちの昭和天皇裕仁と大正天皇嘉仁)の双方の見せ場両方にグッときて涙ぐんでしまいました。

一つは、牧野伸顕が天皇家を、守るために相当強引であっても裕仁を摂政につくように説得するシーン。

もう一つは、牧野伸顕の強引なやり口に悔しさを滲ませながら、原敬が、病の大正天皇に土下座して、泣きながら自らの不明を詫びるシーン。

どんな物語も単純な善悪の対抗軸での対立よりも、このように正義対正義の対立のほうが、盛り上がります。正直、見ているこちらとしても心情的に大正天皇の側に立ってあげたいものの、牧野伸顕と裕仁(後の昭和天皇)も私利私欲の為に、摂政につこうとしているわけではないという背景が見えると、どちらの心情にも感情移入してしまい、上記のように両者の良いシーン各々で涙が溢れてくるなんて状況に陥ります。

■役者も見所でした

ほとんどが皇室の方というある意味特殊な人を演じる難しさに加えて、ほとんどの役者さん(ほとんど30代らしい)は自分よりもかなり年上の役をやっています。それでも、不自然な所作や演技はありませんでした。

溌剌とした若き皇太子から病に倒れ、苦悶する天皇にいたるまてを体を張って演じた西尾友樹さんはこの劇中の明るさを担う役割をとても上手くこなしていました。それだけに、(わかっていたことですが)物語の後半に病に倒れるあたりから漂うシーンの緊迫感も半端ないものがありました。

原敬を演じた青木シシャモさんの抑えた感情のシーンと出番最後近くの激情に流されるシーンの落差は見事でした。また、全体に悪役感満載ながらも、憎めない牧野伸顕役の吉田テツタさんは、表情の中に覚悟のようなものが見えて、ギクッとさせられるシーンがありました。

特に、紅一点の松本紀保さんは、気品と慈愛に満ちた節子皇后を体現し、物語のベースラインを作っていました。
これほどに愛らしく存在感があり、気高い雰囲気を併せ持つ女優さんを僕は他に思いつけません。彼女ありきの舞台であり、彼女の魅力を余すことなく引き出した素晴らしい舞台だと思いました。

■題材選びだけではない珍しい完璧な舞台。

さすがにほぼ無名だったこの劇団を一気にスターダムに押し上げただけのことのある『凄い』作品でした
地方公演+ロシアも含めたワールドツアー後のこの作品。まだ、残席があったのがもったいなかったです。公演は11/6日曜日まで、時間さえあれば誰にでもおすすめしたい舞台です。

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