[劇評]アブラクサス「OPTIMISM」@シアターグリーンBASE THEATER

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「奇跡の人」として何度となく舞台化されているヘレン・ケラー/アン・サリヴァンの話を舞台化した作品。初見の劇団ながら歴史と人間をうまく描かれており非常に好印象な作品。脚本が練られており、演出が細かく、役者も達者。ほぼ非のつけようがない、もっと観客入ればよいのにとちょっと残念


劇団 演劇ユニット・アブラクサス
題名 OPTIMISM
公演期間 2018/09/052018/09/09

アサノ倭雅

演出 演出チーム(岩崎高広、アサノ倭雅)
出演 羽杏:ヘレン・ケラー
星野クニ:ケイト・ケラー(ヘレンの母)
高橋壮志:シンプソン・ケラー(ヘレンの異母兄)
今里真:アーサー・ケラー(ヘレンの父)
坂東七笑:アン・サリヴァン(ヘレンの生涯の教師)
神山武士ピーター・フェイガン(ヘレンの出版を手伝う)
甲斐裕之サム/チャールズ(黒人の召使い/孤児)
劇場
シアターグリーンBASETHEATER(池袋)
観劇日 2018/9/8(マチネ)

目次

奇跡の人は未見です

あれだけ、話題になっているにも関わらずヘレン・ケラーとアン・サリヴァンの物語である「奇跡の人」は見たことがありません

ヘレン・ケラーの話といえば、水に手が触れて「WATER」とヘレンが言葉を認識するところで終わっております

「レ・ミゼラブル」を燭台を盗んだ男の話と思っているくらい、断片的にしか話がわかっていない状態で見に行きました

今回も、ヘレン・ケラーの話に興味を持ったから行った訳ではなく、劇団の方にご紹介を受けたから(ツイッター等でお誘いをいただければ、時間と体力があれば行きます!ので、ダメ元でも連絡いただけると嬉しいです

一昨年までは2年連続で一般審査員を努めた「池袋演劇祭」でしたが、昨年は落選、今年は私事都合で審査員に応募していなかったのですが、くしくも池袋演劇祭参加作品の一作を今年はみることができました

ここからネタバレがあります

歴史とヘレン・ケラーの生涯が一致して興味深い脚本でした

という背景で見に行きましたが、個人的には非常にハマって見ることができました

物語は前述の「奇跡の人」の後の人生まで含めたヘレン・ケラーの生涯を描いたというもの。とはいえ、物語自体はアン・サリヴァンの死で終わるので、ヘレンの物語というよりも、サリヴァンの物語というイメージの方が強かったです

元々、今年2作品見たLiveUpCapsulesや昨年みたマコンドープロデュースの作品など歴史を舞台化した作品は好きな私にとっては、この手の話は大好物です



今回の作品も、なんか歴史的な背景をきちんと踏まえた作品になっていて見応えのある脚本になっていました。

今年が、ちょうど没後50年になるヘレン・ケラーは、南北戦争直後のアメリカの南部で生まれ、第一次、第二次大戦という戦争の世紀を生き、その間にソビエト連邦が成立した

奴隷解放が正義になりながらも、キング牧師が黒人解放を訴える時代に生きてきた(ちなみにキング牧師の没年もヘレン・ケラーと同じ1968年)

そういう背景を考えると、女性差別、障害者差別が当たり前の社会背景の中で、同様の差別を受ける黒人を身近な人たちと感じ、労働者階級や黒人解放の集会に積極的に参加する成長後の彼女の姿は過激なようでいて、共感できる部分が多い

演出が細かい(いい意味で)

こういう歴史もので長い時間を扱う舞台は、時間経過をどうやって表現するかが、演出方針でかなり異なります

中には役者の力量に完全に頼って、衣装等をほとんど変えない舞台のこともあれば、メイク/衣装ともに少しづつ時代背景や当人の年齢を表すことがあります

この舞台は後者でした

衣装、メイクなどを時代ごとに変えて行き、演者もそれに合わせた演技になっていきます。

最初は若々しい元気印だったアン・サリヴァン(当時20歳だったとは驚きました)役の坂東七笑さんは、年を経るたびに体の動きをゆったりさせたり、ヘレンの兄シンプソンの役の高橋さんの髪の毛も、白髪まじりにされるなどメイクなどでうまく年齢を表しています

衣装も時代を感じさせる衣装から、現代的な衣装への変わっていく事で時代背景を感じ取ることができました

丁寧な仕事がされているなと感じました

また、テーブルと椅子というシンプルな小道具を使いまわしながら、ヘレンの実家やニューヨークの自宅などのイメージを変えてきたところもうまい趣向でした

アン・サリヴァン役坂東さんの演技が新鮮でした

この舞台は、なんだかんだ言っても、アン・サリヴァンがいかに情熱を持ってヘレンの教育に当たるかの意思が伝わってくるかにかかっています

坂東さんは、この清新で情熱あふれる役をうまくこなしていました

ともすれば、情熱的な役をやろうとすると、声を荒げたりすることが多いのですが、坂東さんの演技は声だけに頼らず全身で感情を表すことができる女優さんでした

衝撃的だったヘレン・ケラー役の羽杏さんの演技

正直、この役をきちんとやることができる人は世の中にそんなに多くないと思います

目が見えず、耳が聞こえず、そのために言葉がきちんと話せない

舞台上でこの役を健常者がやれば、かならずどこかで破綻するような気がするのですが、羽杏さんは本当に目が見えていないかのように振る舞っており、視線を彼女の演技や表情から感じることができませんでした

また、まったく言葉が話せないところから、発声練習を繰り返すようになって初めて話すシーンも感動的でした

その後、大人になり話せるようになるという演技をするのですが、最終的にもけして聞き取りやすい話し方にはなっていません(実際もそうだったんだと思うのですが)

しかし、その少しづつ聞き取れるようになるという表現ができていることがすごいなぁと素直に感動してみていました

他の役者さんも芸達者な方が多く見ていて違和感のない舞台でしたが、とにもかくにもヘレン役の羽杏さんとサリヴァン役の坂東さんの演技がこの舞台の背骨として支えていました

ちなみに、この羽杏さんは、作のアサノ倭雅さんと同一人物だと後から劇団のHPを見て知りました

本日は、聴覚障害者/視覚障害者の為のサポートも

舞台の内容ということもあると思いますが、今日の公演は視覚障害者向け、聴覚障害者向けのサポートのある舞台でした

過去に視覚障害をお持ちの方と舞台をみたことのある私は、彼らがそういうサポートがなくてもびっくりするくらい感受性豊かに舞台を感じ取っているのに驚いた事があります

それだけにこのようなサポート(音声ガイドと字幕)を用意する劇団の姿勢には好感を持ちました

このような舞台だけでなく、多くの舞台がこのようなサポートを行うといいのになぁと思いました

以上 演劇ユニット・アブラクサスの「OPTIMISM」の感想文記事でした

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