鈴木商店という幻のように生まれては消えた大商社を舞台とした男たちの戦いの物語。時代に乗り、そして翻弄される中、家族のように相互を信じ合う姿をスピーディに描く演出と無骨で猪突猛進の金子直吉を演じる山田隼平さんの白熱する演技に圧倒されました。
劇団 | LiveUpCapsules | |||||
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題名 | 彼の男 十字路に見を置かんとす | |||||
公演期間 | 2018/07/04〜2018/07/15 | |||||
作 |
村田裕子 |
演出 | 村田裕子 | |||
出演 |
山田隼平:金子直吉 今村裕次郎:西川文蔵(金子直吉を支えるナンバー2) 高山和之:日野誠義(経理を預かる) 木村圭吾:田宮嘉右衛門(買収したばかりの製鋼所(神戸製鋼)を任せられる) 遠藤綱幸:秦逸三(人工絹糸を作る研究者。なかなかうまくいかない) 根津重尚:久村清太(人工絹糸を作る研究を行う秦を支える) 桂弘:高畑誠一(ロンドン支社にて大活躍。鈴木商店の将来を憂えている) 山形敏之:永井幸太郎(政府のために米の輸出入を担う) 新里哲太郎:須藤昭雄(ロシア、満州、朝鮮のエキスパート。金遣いが荒い) 虎玉大介:住田正一(船の手配のエキスパート) 菊地真之:朝日新聞 弓削郎:下坂藤太郎(台湾銀行の鈴木商店担当) 宮原奨伍:後藤新平 |
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劇場 |
小劇場楽園(下北沢)
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観劇日 | 2018/7/15(ソワレ) |
目次
激動の時代に幻のごとく成長し消えた鈴木商店
鈴木商店について知ったのは学生時代によんだ「栄光なき天才達」という漫画でした。
金子直吉という男と高畑誠一という天才を軸に描かれた漫画で、鈴木商店の勃興から滅亡までがとてもよくまとまっている本です
鈴木商店をその祖に持つ双日のホームページに行くと途中まで読むことが出来ます
長らく絶版になっていて、読めなかったのですが、電子書籍で復刊していました
双日のページでは、途中までしか読めませんが、漫画では鈴木商店が破産するまでを読むことができます
この鈴木商店をLiveUpCapsulesが取り上げるということで、足を運びました
ここからはネタバレがあります
金子直吉=山田隼平の怒号が、舞台上の熱気が劇場中を包み込む
13名のキャストは全て男性。ほとんど叫びあうような熱気あるセリフが飛び交う所から、舞台はスタートします
その中でも、中心で主役の金子直吉を演じる山田さんの演技のハイテンションさが目を引きます
あの鈴木商店を象徴し、チラシにも記載されている有名な英文「Buy Any Steel,Any Quantity,At Any Price」は冒頭に「鉄や、鉄を買いしめるがぞ、金やったらどればぁ使ってもええ!」という高知弁で叫びます
あの声の出し方で、2週間上演できたことだけでも脅威的だなと思いました
それだけに、金子直吉の迫力を存分に体現できており、座組をひっぱるパワーを感じることができました
舞台上の熱気を見ながら、一個人商店が世界を席巻する過程であれば、当時の鈴木商店はこんな感じだったのかもと夢想していました
今の勢いのあるベンチャー企業の社内みたいだなぁとか思いました
思えば、当時は日本という国そのものが、欧米という大企業に挑戦するベンチャー企業のようなもの、劇中でもセリフで出てきますが、「金子は日本を背負っている」というのもわかる気がします
前回の公演とは、違い個々のキャラが立っている
LiveUpCapsulesの舞台は、過去に2回見ています。前回は、財界の伝説的な存在渋沢栄一を扱ったドラマで、宮原奨伍さんを主役に据えつつ、まわりの人々は全員が何役も演じるという形でした
そのときには、宮原さんは良いものの、他の役者さんのキャラが目立たなさすぎて少し不満だったのですが、今回は真逆でした。
実在した金子直吉、西川文蔵、田宮嘉右衛門、秦逸三、久村清太、高畑誠一、後藤新平….(他の人も実在かもしれませんが、調べきれませんでした)。
そういった人たちを生き生きと演じる役者の皆さんの熱演が今回はひときわひかりました
特に、西川文蔵を演じる今村さんの落ち着いた演技は、全体の基調を作っていました
バンドで例えれば、前面にでて目立ちまくるボーカルの金子直吉を支えるベースギター的な感じで、いないと舞台が落ち着かないという感じの演技でした
それだけに、後半の感情をむき出しにする演技との落差もまた良かったです
後の日商岩井(現双日)の創業者である高畑誠一を演じる桂さんの演技は、毎度のことながら存在感がありました
漫画の印象もあり「天才」高畑をどう演じてくるかと思っていましたが、若い頃の失敗談を交えたエピソードも含め、随分と人間的な柔らかいキャラクターから始まり、ス−パーマンのように鈴木商店を拡大させていく手練になっていくさまは圧巻でした
この今村さんと桂さんの会話の応酬(海を超えているので当然架空ですが)は、見ていてハラハラする見どころのひとつでした
後のテイジンを創業する秦逸三と久村清太を演じるお二人のコンビも笑いのポイントでした
特に遠藤さん演じる秦の変人ぶりは、これまでに何度か見た中でも群を抜いて面白かったです。それに振り回される久村さんを演じる根津さんのなんとも情けない表情も印象にのこりました
朝日新聞完全に悪者ですね
以下の本が参考文献になっているので、そちらからの引用が多いように思いました
文藝春秋 (2011-12-06)
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政府と仲が良い会社が、旨味を吸って民衆の怒りを買うという筋立てありきで記事を書き、民衆を扇動していくという描かれ方がなんか今の現実とクロスオーバーしているように感じます
当時は、今と違って人々の情報源も限られていた時代。
物語のクライマックスになる鈴木商店の焼き討ち事件につながった朝日新聞の記事が物語にあるように事実と大きく異なるのであれば、やはり罪は重いと思いました
米の売買では赤字になるのが覚悟でありながら、国のためを思って1私企業として奔走する会社の姿をそのままそこで働く男たちの姿に置き換えた脚本のちからもうまいと思いました
朝日新聞出版
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謎の残る伏線あり、切り替えの早い演出に感嘆
過去に2回見た公演同様に、LiveUpCapuselsの舞台では観客が舞台を囲む構造になります。今回の楽園は最初からそういう構造でした、客が入ってくる通路まで舞台のように使うことで、いつもと同じような観客により挟み込まれている舞台を作り出していました
この舞台の作り方が、演者に独特の緊張感をもたらしているのかなと感じました
暗転がまったくないスピーディな演出は子気味の良いものでした。特に、ロンドン支店長の高畑の大失敗をしたときの回想シーンと現実との切り替えの速さは良かったです。簡単に台詞の説明ですますことも出来たわけですが、それをシーンにしたことで、切れ味がよくなっていたと思います
そういえば、須藤がとても一人で使い切れないアメリカ行きのお金を一晩で使い果たしたというエピソード。どこにも落ちがなくて少し気になりました(ネットで調べ回ったがやはりわからず…本当は何に使ったんだろう。気になる)
ビジネスマンとして見たときの金子直吉の凄さ
ビジネスマンとして普段仕事をしている身としてみたときに、この舞台の中で感嘆する台詞が多くいろいろと考えさせられるところがありました
アメリカ行きの金を使い果たした須藤を残す決断をした金子の言葉である「千に3つくらい誰にも出来ないことをやるやつ」とか、「投資をするなら3倍の資金を用意する」とか、そういう言葉がいちいち響きます
株式会社化に反対する金子の台詞も、株式公開を嫌がる最近のオーナー企業の社長と似てるなとちょっと苦笑いしました
最後に、会社が焼き討ちにあっても、支配人の西川が死んでも社員に号令をかけ続ける金子。
ラストシーンのその最後に、西川とよんだ後に返事がないことを受け入れられずそれでも受け入れなければならないという金子直吉の表情
この芝居で唯一目頭を熱くなったシーンでした
以上 LiveUpCapuselsの「彼の男 十字路に身を置かんとす」の感想記事でした
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