[劇評]劇団サイドビジネス「動物倉庫」@アルシェ(阿佐ヶ谷)

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大江健三郎の初期作を基盤をA面にしたうえで、B面の不条理な演劇がどんどんA面を侵食してくる不条理な舞台。見ていて、虚実ないまぜの舞台に現実がふらつく感を味わえるものの、演出が趣味にあわないこともあり、見終わった時に疲労感があった。装置や役者の一部に良いものもあったが、長さを感じる舞台でもあった。

劇団 劇団サイドビジネス
題名 動物倉庫
公演期間 2018/10/122018/10/14

山本権蔵(原案 大江健三郎)

演出 渋村晴子
出演 阿南さとし:倉庫番の所長 相良銀次
木村由紀子:事務員 高尾タコ
中川マサヒロ:サーカスの男
田處義久:団長 サブバトーレ=ダネ
鳥屋原理子:踊り子 アンジェリーナ・なますて
山本権蔵アンコウ警部
古米翔太学生 妙丹一郎
劇場
阿佐ヶ谷アルシェ(阿佐ヶ谷)
観劇日 2018/10/14(マチネ)

目次

大江健三郎の原作を元にしてのオリジナル

題名及びストーリーの基盤になるのは、大江健三郎さんの初期の戯曲作品です

電子書籍でも読むことができます。以下の短編集に含まれています(新潮社文庫)

(新潮文庫)
大江 健三郎
新潮社
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僕も実は、途中まで読んでから観劇しました。全部読んでからだとネタバレになることを恐れてのことでした

とはいえ、ストーリーはかなり改変されています。というか、あくまでも基盤でしかなく、ほぼオリジナルストーリーと言っても過言ではないと思います

逆に言うと、なぜこの物語をベースにしたのか…という部分が最後まで不思議に思いながら見ていました

二重構造の物語による虚実の錯綜

原作では、大した役割のない学生が、探偵小説家志望ということで、彼が紡ぐ物語が原作の物語に内包される形で話が始まります

彼の想像の産物でしかない探偵が暗躍し、謎の密室事件を次々に語ります。原作の方の物語は、全体の三分の一くらいの時間を残して終わってしまうにも関わらず、内包されていたはずの物語が広がり、更に別の物語が語られ始めます。

そもそも二重構造と思っていた物語の外側(動物倉庫)と内側(その登場人物の学生が紡ぐ探偵物語)が、やがて外と内が逆転し、探偵物語の中に、出演者として倉庫の所長や事務員が現れたりします

原作には登場しないサーカス団の団長と踊り子の役もどちらの物語の登場人物なのかがよくわかりません

当初は、動物倉庫(大江健三郎の物語)の現実を拡張した世界にいるのだと思っていたのですが、途中から探偵物語の方の登場人物としての役割が増してきます

そういえば、舞台である動物倉庫の方に連絡係りとしてくるサーカス団員と団長と踊り子はまったく接点がありません

両者が語るニシキヘビが同じものであるかどうかさえ、途中から判然としないことに気づきました

物語の構造としては、とても工夫を凝らされており、観客を幻惑させ不思議な世界に強引に引きずり込むというアングラ芝居的な手法は、嫌いじゃありません(唐組なんてそんなのばっかだし)

ただ、何故か今回は、話の構造が複雑に極まる中でストーリー/シーンを追うのはかなり疲れたというのが、正直な芝居後の感想でした

複雑は複雑なりに、何か最終的に筋の通る説明があればよかったのですが、最後にやはりこの物語全体が、学生の書いたボツになった探偵小説であったというある意味、夢オチのような終わり方になってしまったので、ちょっと力が抜けました

オールドスタイルな演出、アングラテイストな演出

最近の舞台では類をみないほど暗転が多いのは、やはり気になりました

暗転は、観客の集中力が切れる傾向にあり、最近の舞台では暗転が極力減らす方向に進んでいるように思いましたが、今回は特に暗転が多かったように思いました

個人的には、暗転で繋がなくてもシーン転換できそうなときにも暗転を挟んでいるような気がして、途中から(またか…)と思いながら暗転を迎えていました

また、全体に役者さんが二人で会話しているにも関わらず、ふたりとも客席側に向いてしゃべるという演出は、(前回も同じこと思った気がしますが)やはり気になります

確かに、若い頃見ていた舞台は、そういう演出が多かった気がするのですが、最近は会話しているときには、会話の相手を見るという演出をみるのになれているせいか、8割方こっちを見ているようなセリフ回しには、なれなくなってきているような気がします(あえて、目線はずしも兼ねて、端の席に座ったのですがやはり気になった)

どちらもアングラ芝居や、昔見ていた芝居ではよく見る演出だったような気がするのですが、オールドスタイルな演出にしかみえず良さを感じ取ることができませんでした

最近見た舞台で、東京ヴォードヴィルショーの舞台で、佐藤B作さんがめちゃくちゃ客席見て演技していて、別に客席を見る演技が悪いわけじゃないとは思うのですが、あっちの場合、逆に回りが普通の演技をしているので、佐藤B作さんのキャラが立つという効果がありましたが、全員がそういう演技をしてしまうと既にそんな効果もありません。うーん

なかなか、終わらない…

原作を読み切って行ったわけではないので、当然ラストシーンは知らないまま行きました

それでも、原作の終わりはわかるようになっている脚本で、そこから先はオリジナルなストーリーのみで展開していくのですが、上記のようにストーリーが錯綜しているせいか、終わりそうで終わらないという演出に見ていて消耗してしまいました

何度も、終わったと思って手をたたきかけてしまいましたが、まだ続く….という(暗転の多さにげんなりし始めたのもそのくらいの時間

噂によれば、ハリウッド映画は最終ラッシュをみせるとき、複数のラストシーン候補を連続で見せて観客の評判を確認するとのことだが、こんな感じなのかなと思ったりしました(いや違う。多分)

役者の演技は奮闘していたもののチグハグな感じがある

役者全体としては、奮闘していたし、くすっと笑わせてもらえる演技もあったものの、全体にチグハグな感じがありました

原作にある役であるため、ある程度イメージを持ってしまってみた倉庫番の所長と事務員については、真逆の印象が残りました

原作に近く非常に見やすい演技は、事務員役の木村由紀子さんでした

前回見たとき(「夜の来訪者」)は、上流階級の母親役をうまくこなしていましたが、今回は仕事一筋のオールドミス(死語?)を演じ、場面をうまく回していました

日常にげんなりとしながらも、仕事になれた頼りがいのある事務員から、ヘビを殺さなければならないという状況に追い込まれた後の取り乱す様への変貌はなかなか見ごたえがありました

演技も自然で見ていて最も見やすい役者さんでした

一方で、倉庫番の所長の阿南さんについては、今回は全体にローテンションで平板過ぎて感情の起伏を感じることができませんでした

「動物倉庫」という戯曲における面白さは、このなんの取り柄もなさげな主役の倉庫番が、日常から危機に際して勇気を奮い起こして、更に思わぬ展開にという運命のいたずらに翻弄されるところが面白いと思ったのですが、今回の舞台上においては、その面白さが伝わってきませんでした

個別のシーンでの役作りは、やり方としては「あり」のやり方だと思いました

日常部分で、動物大好きなハイテンションな倉庫番よりも、なんか不気味な感じで動物が好きというキャラ設定はありと思います

危機に瀕して、激昂するとかテンションをあげるよりも、ちょっとうつろな目になりながら、心の底でメラメラと決意を固めていくというのもありと思います

そして、どんでん返しにあって、運命の翻弄に怒りと悲嘆にくれるという短いサイクルの感情の起伏を、声を荒げたり、オーバーアクションをせずにセリフの言い回しだけで、呆然とした感じを演じるのもありだと思います

更に、悲嘆から絶望に変わった瞬間に、思わぬ救いに見舞われ、信じられない状況から少しづつ事実を受け入れ安堵するところも、大喜びをするのではなく「静かに」その運命を喜ぶというのもありだと思います

ただ、結果として全シーンローテンションでやるのはなしです

結果として、なんの感情の起伏も客席に伝わってきませんでした

上記のように、個々のシーンの演技には不満があるわけではありませんが、全体としては結局感情移入不可能なキャラになってしまったのは、やはり構成力の弱さと感じました

学生の想像の産物であるアンコウ警部を演じる山本権蔵さんは、怪しさ満点で地力を発揮されていると思いました

ただ、かなり強引に物語を進行させる役であるため、感情移入できるキャラではありません。これは、原作にあるサーカス団員役の中川さんも同じですが、キャラクターとしての役割をまっとうすることで芝居を成立させていました

サーカス団長と踊り子のコンビは、賑やかなシーンで、ともすれば暗くなりそうな芝居を明るいイメージに変えてくれる役割を全うしていました

ジャグリングなども良く練習されていて思わず拍手をしてしまいました

ただ、これまた演技が平板な部分あり見飽きるところがあったのは残念でした

おそらく、過去見たあらゆる舞台の中で最も難しい主役

原作の主役は、上記の通り倉庫番の所長なわけですが、この舞台の主役は学生役の古米さんでした

非常に立ち位置が微妙で、性格も一定しておらず見ている限りにおいて、何が正解なのかまったくわからない役柄でした

心優しい小説家志望の学生と物語の中に突然あらわれる絶対悪のエルを両立するというのはかなり難しい役だなと思ってみてました

最後は、彼の内面の物語ということで、終わる以上、様々なところに彼の思いが入ってないといけないのですが、それは流石に荷が重いと思いました

というわけで、結局彼の演技も迷走したままに終わったようにみえました。

抽象と具象の中間的な装置のテイストは良かった

かなり色々趣向が凝らされた装置で、良かったです

当初想定していなかったギミックがたくさんあり、最後のお花畑や巨大ニシキヘビは素直に驚いてみていました

具象的な舞台装置から繰り出される幻想的なギミックは、かなりびっくりしました。うまく融合していたと思います

心に残ったセリフ/なぜ?と思ったセリフ

一番印象に残ったのは「人間は、やがて小さく固まる灰になる」といった虚しさを示すセリフ

動物倉庫の本編にも近いセリフがあったが、ちょっと違う意味で使われていたように思いました

これが、この舞台の個人的に感じたテーマであったように感じました

ちなみに、原作にない東京オリンピックをだした意図は逆になんだったのだろう…とうとう最後までわかりませんでした

前のオリンピックを指すならば、学生が使っていたスマホと矛盾するし、未来の話ならば、サーカスの設定が微妙..出した意味がまったくわからず余計な設定だったように思いました.

以上 劇団サイドビジネス「動物倉庫」の感想記事でした

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