[劇評]劇団桟敷童子「骨の憂鬱」@すみだパークスタジオ(とうきょうスカイツリー)

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客演陣の充実もあり見ごたえがある舞台になっていた。少しミステリー調で、冒頭の謎を最後まで引っ張るストーリーで、ラストシーンで明かされるその謎の理由がある小説をおもいおこさせる物でした

劇団 劇団桟敷童子
題名 骨の憂鬱
公演期間 2019/5/21〜2019/6/2

サジキドウジ

演出 東憲司
出演者  稲葉能敬:一平(主人公)
 大手忍:菜緒(一平の妻)
 板垣桃子:伊織(一平の母)
 中野英樹:英治(一平の父・蔵野家の次男)
 原田大二郎:蔵野富士雄(蔵野家の主)
 斉藤とも子:蔵野美津子(富士雄の後妻)
 原口健太郎:蔵野源治(富士雄と先妻の長男)
 増田薫:蔵野美鈴(源治の妻)
 羽田野沙也加:蔵野里香(源治と美鈴の一人娘)
 三村晃弘:蔵野俊治(富士雄と先妻の三男)
 もりちえ:松尾加奈(蔵野興行経営の食堂「山故郷」従業員)
 柴田林太郎:鶴田作造(蔵野興行経営の食堂「山故郷」従業員)
 升田茂:古橋耕一(蔵野興行経営の食堂「山故郷」従業員)
 川原洋子:能嶋清美(自称「歌うトマト姉さん」・農家)
 鈴木めぐみ:傘婆さん(徘徊する老婆)
劇場
すみだパークスタジオ倉(とうきょうスカイツリー駅)
観劇日 2019/05/26(マチネ)

目次

久しぶりのビニールシート….

会場に入り、自由席だったため珍しく最前列に座りました。座席にはビニールシートがおいてありました
既にアングラといわれる舞台をみるのには慣れっことはいえ、ビニールシートが登場する舞台は随分久しぶり。見ると僕が座っている真正面の舞台には池があります

開演前に、思ったとおりの注意喚起の説明あり。ビニールシートが必要になるきっかけまで教えてくれるので随分たすかりました(私はマジで真正面だったので結構水が来た…)

ここからはネタバレします

殺人事件が起こることがあらかじめわかっている物語

物語の冒頭で、いきなり妻を殺した男の話が始まります。
悲劇がなぜ起こったのか、その謎をとく鍵は男の幼少時にあると語ります
男は、「自分の少年時代は7歳で終わった」と語り、舞台は7歳の時代を過ごした九州のある村へ

やたらと、村人が少年の名前を連呼するシーンが多くあります。

当初は不自然だなとか思っていたのですが、7歳の少年が見た世界なんて完全に自分中心なはずでそういう心象風景を舞台化したのだとするとこうなるんだなぁと途中から思い直してみてました

客演陣の存在感ハンパない

個人的には、客演陣の中でも中心的だった斉藤とも子さん、原田大二郎さん、中野英樹さんの各々の個性を活かした演技が素晴らしかったです

斉藤とも子さんは、初見の役者さんでしたが、凛とした硬質な演技で今までにみた桟敷童子の舞台にはあまりいないタイプの女優さんでした(公演後の談話会では、普段の演技とは随分違ったようですが)
その存在感は際立っていて、たくさんの役者さんがいても、出てくると自然に目が斉藤さんを追うような感じで見ていました

原田大二郎さんは、昨年の翼の卵以来、2度めの桟敷童子


昨年は、過去に闇をかかえる病弱な老人(失礼)の役だったので、それにあわせて存在感はあるものの何か支えられないと危うさを感じる儚げなイメージを体現されていました

今回は打って変わって、元気いっぱいの老人役。存在感どころか、舞台上で実物としてだれよりも大きく見えます。演出の力もさることながら、演技でこれほど印象が変わるとは…さすがです

一方で、中野英樹さんは桟敷童子だけでなく多くの舞台で見させていただいている役者さんです。こちらは、印象どおりの若干情けない状況のなかで、必死にもがく姿がハマっていました。

稲葉さんにしか出来ない主役!!

思えば、この劇団に初めてであった舞台では、稲葉さんが主役でしたが、以来稲葉さんが主役という舞台はなかったように思います(とはいえ、全部の舞台をみていないのですが)

今回は、黄色い子供用のキャップをかぶるだけで、7歳の子供になり、脱ぐと大人になるという目まぐるしい演出ですが、稲葉さんだからこそ成立した話だったと思いました

語り部としての客観性と自分語りの物語の登場人物としての自分。

激することもなく、どちらかといえば淡々と殺したはずの妻(大手忍さん)と会話をしていくさまは、殺人を犯した主人公としてはある意味もっとも不気味なものでした

殺人の動機が、カミュの「異邦人」を思い出した

妻の不貞があったとはいえ、久しぶりに見た妻を愛おしいとさえ思った男が妻を殺した理由が「トマトがきれいに実っていたから」という部分は、賛否があるかもしれませんが、僕はすっと入ってきました

それまでに語られた彼の家族が崩壊し、繰り返し語る「7歳で少年時代が終わった」という背景にある「トマト」の意味が最後に伝わったからでした

どこかで似たような話を見たなと思いましたが、学生時代に読んだアルベール・カミュの「異邦人」の主人公ムルソーが検察で話した
「太陽が眩しかったから」殺人を犯した
というあたりと似ていたのだと思いましたが、あっちを読んだときは(読解力のなさか)、釈然としないものを感じましたが、今回はピンときました

ま、どっちの発言ももし現実に警察で行えば精神鑑定行き確実ですが(苦笑)

水かぶりは、油断したときに…

最初に書いたように最前列で、水かぶりの真正面席に座っていましたが、一番水が激しく客席に散ったシーンである原口健太郎さんと中野英樹さんの水中喧嘩のシーンは、無事ビニールシートの活躍で難を逃れました

唐組や新宿梁山泊で水かぶりに慣れているからね…

と油断していたら、目の前で板垣桃子さんが、背中から池に倒れ込みました

水しぶきが顔面に….メガネをかけていたので目には入りませんでしたが、まったくビニールシートをあげる反射が出来ず。年をとったな…

寒い季節じゃなくてよかった

本水を使った相変わらずの圧巻の装置

既に、触れることさえ必要がないと感じるほど、いつもいつも呆れかえるほどに力の入った装置です
今回は本水をふんだんに使っています。水族館劇場なの?というくらいの水の量です
室内の劇場だということをしばしば忘れてしまいそうです
滝を劇場に再現するとは思いませんでした

今年は新作3作品とのこと。

次は何をしでかすのかしてくれるのか、楽しみになります

以上 劇団桟敷童子「骨の憂鬱」の劇評記事でした

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