[劇評]桟敷童子「翼の卵」@すみだパークスタジオ倉(とうきょうスカイツリー)

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人物の造形がしっかりしていて、背景に抱える物語に真実味がある。非常に丹念に作られた世界観に惹き込まれる素晴らしい作品。客演陣も含めた役者の力も高く、相変わらずの舞台装置のすごさも手伝い、今年見た中でも一番印象に残る作品となった
翼の卵ポスター
劇団 劇団桟敷童子
題名 翼の卵
公演期間 2018/05/292018/06/10

サジキドウジ

演出 東憲司
出演 板垣桃子:篠塚頼子(篠塚毅彦の妻)
大手忍:篠塚惠子(頼子と前夫の娘)
鈴木めぐみ:篠塚登紀子(篠塚農園主)
坂口候一:篠塚毅彦(長男・頼子の再婚相手)
深津紀暁:篠塚史彦(次男・製材所勤務・篠塚家を守ってきた)
松本亮:篠塚繁彦(三男:ひきこもり)
新井結香:篠塚アオイ(史彦の嫁)
稲葉能敬:西寺薫(西寺興業社長・毅彦の幼馴染)
川原洋子:杉野ヒロエ(毅彦の幼馴染・地元の洋食屋)
鈴木歩己:浦部源之助(土木業・浦部組社長)
もりちえ:浦部千登勢(源之助の妻)
三村晃弘:八幡保之(浦部組従業員)
升田茂:古賀均(浦部組従業員)
柴田林太郎:中村宗吉(浦部組従業員)
山本あさみ:福留一美(浦部組従業員)
内野友満:松尾ミエ(浦部組従業員)
原口健太郎:熊野鉄兵(浦部組従業員)
原田大二郎:常藤耕作(浦部組従業員)
劇場
すみだパークスタジオ(とうきょうスカイツリー)
観劇日 2018年06月02日(マチネ)

目次

久しぶりに見に行ったが、本当に良かった

2004年以来14作品もみてる劇団なので、好きな劇団ではあるのですが、なぜか最近足が遠のいていました。直近は、2014年だったので、なんと4年ぶりに観に行きました

変わっていることも、変わっていないこともあって、劇団の歴史を感じる一方で、芝居の完成度は変わらず高かったです

心を揺さぶられるシーンも多数あり、物語の破綻もない。素晴らしい作品で、超満員の客席も納得でした

ここからは、壮絶にネタバレがあります

すでにアングラ劇団ではない

個人的には、この劇団は唐組、新宿☆梁山泊などの流れを組むアングラ劇団だと思っていましたが、今回の作品を見てすでに作品はアングラ劇団のそれではないなとつくづく思いました

例えば、群衆シーンがもうなくなっています。歌わなくなりました。観客を惑わす物語の破綻もなくなっています

圧巻の屋台崩しのみが、残っていますが、この劇団の源流が唐組/梁山泊といった劇団だといわれても両方見た人はピンとこないのではないでしょうか…

ちなみに、今回頼りになる土木業の女将さんを演じているもりちえさんは、以下の2000年に見た新宿梁山泊版の『吸血姫」に出演していました

ちなみに、この芝居で狂気の看護婦高石かつえを演じた梶村ともみさんは、↑の今回のチラシの絵を書いているとスタッフ欄に書いてありました。こんな才能もあったんだ…

アングラ劇団でないというのは、けして落胆すべきことではなくて、この劇団の芝居は芝居なれしていない人にも自信を持って「オススメ」といえる劇団になったなぁと思いました

実際観ている際に、芝居をけしてみない知り合いとかを頭に浮かべながら「観てほしいなぁ」と思える数少ない作品でした

顔ぶれが変わらず安心させてくれた女優陣。成長著しいなとも思いました

久しぶりに(そもそも劇団観に来たのが4年ぶりなのであたりまえですが)板垣さんが板垣さんらしい弱い女性から芯の強い女性に成長していく主役を演じているのを観た気がしました(この構造は変わっていない

その他、大手忍さんの女子高生役やもりちえさんの貫禄ある女将、鈴木めぐみさんの安定の老婆役は観ていて安心できました

また、清純イメージだった新井結香さんのハスっぱな売春婦の役に驚かされましたが、堂々としていて単なる悪女ではないなにかを秘めた感じがありました

物語もほとんど破綻がなく、潔く物語の軸のみを描き出している

いつも感心させられるのですが、たくさんのキャラクターが登場する物語でありながら、物語の中心がぶれず感情移入しやすい構成になっています

今回も、主要なキャラクターである板垣さん、大手さん、原田さんの三人の不思議に交錯する心情が描き出される一方で、周辺のキャラクターについての物語は抑えめに表現されています

だからといって、周りのキャラクターが薄っぺらいということもなく、個々の役者さんはその役の背景をよく理解して演じているのがよくわかります

土木業の社長役の鈴木さんが、色々な人の人生をしょってたっていることを伺わせる思いセリフ

ハスっぱで、口汚い罵り言葉しか口から出てこない新井さんが、子供のハブに噛まれたと知ったときに見せた人の良さ

何もないけど、一癖ある土木業で働く原口さんの語られない過去

気になる役が多数あり、それを全力で演じていながらその役の背景を語るシーンがほぼない

こういう潔さが、芝居の面白さを支えていると思います

心を揺さぶられる人間関係

もっともジーンときたシーンは、原田さんと自分の関係を娘からもらった手紙の一節で知る板垣さんのシーンでした

大嫌いな男の作った詩を通じて、自分たちを不幸に落とした男のことを知った女としての怒りと哀しみ

大好きな娘が初めて手紙をくれたことを一生の宝にしようと誓う母親としての女の喜びと感動

その両方の背反する感情に切り裂かれる板垣さんの演技にジーンと心を打たれました

その彼女の感情を受け止める原田大二郎さんのどうどうたる演技、さすがの存在感でした

それでいて、劇団の他の役者さんに見事に溶け込んでいるのも見事と思いました

ストーリーは二転三転。先が読めない

こんなにストーリーテリングがうまかったっけ?と驚かされるほど、物語の展開も巧みでした

どんでん返しが何度もあって、最後もあっけにとられる終わり方

最初のあたりのシーンに完全にミスリードされてました

ちょっとなめてかかっていたかもしれません。ごめんなさい

装置のちからのはいり様が尋常じゃない

入場したときから感じる夏のイメージ。蝉の声を聞き、木に囲まれた舞台。何度もこの劇団を観ている身として最後にどうなるかがわかっているのに、舞台を見てその緻密かつ具体的な装置に驚かされます

そして、ラストは想定通りの屋台崩し。えぇぇぇぇーと心の中で叫んでしまうほどの装置の崩れっぷりで、いや完全にやらました

でも、あれを毎回もとに戻す劇団の皆様の努力に頭が下がります

テント芝居で見慣れた屋台崩し。室内でやられると白けることが多いのですが、この劇団はそこを乗り越えようとずっと色々やってきています

この劇団に関しては、白けるということはないと安心してみることができます
今回も、崩した後はとても印象に残る光景でした(セリフでだいたい想像はついてましたが)

ちなみに、欲をいえば、飛んでほしかったです(無茶だとは思っていますが)

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