学生時代に戯曲を読んだ飛龍伝を、ようやく理想的な形で見ることができました。今までに何度も様々な機会で飛龍伝を見てきたが、一番見たかった形でみることができました。
2時間半にわたる舞台、たった3人のキャスト。そのほとんどが男性二人だけのテンションの高い会話のみ。それでも、あっという間に過ぎた時間でした。完成度の高さ、練度の高さに戦慄さえ覚える舞台でした。
劇団 | AKTStage | ||||
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題名 | 初級革命講座 飛龍伝 | ||||
公演期間 | 2016/07/07〜2016/07/10 | ||||
作 | つかこうへい | 演出 | 錦織一清 | ||
出演 | 逸見輝羊、杉山圭一、稲垣里紗、栗林真弓 | ||||
劇場 |
北とぴあ・つつじホール(王子)
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観劇日 | 2016年7月10日(ソワレ) |
目次
■学生時代に読んだ戯曲の世界が眼前に。
初めてこの作品に触れたのは学生時代で、戯曲を直接読みました。地方の貧乏学生で、つかこうへいの名前や作品名に触れていても、直接にその作品を見ることが叶わず、次々と戯曲を読みこんでいた時期でした。
その時の飛龍伝の印象は、男臭い会話劇で、個人的にはぜひ一度見たいと思いこがれた作品でした。
ようやく、上京し、つか作品を上演する様々な劇団のものを(つかさん本人が演出したものも含め)見てきましたが、学生時代に想像した舞台とはいつも何かが違っていました。
今回の舞台が自分が空想した飛龍伝に一番近かった気がします
ノラリクラリと山崎(機動隊)や嫁のアイコをいなす熊田留吉が、徐々に自分の立ち位置に気付き追い込まれていく様は、圧巻だった。こういう飛龍伝を見たかったと、途中から前のめりに見ることができました。
…そして、なぜ、これまで理想的な飛龍伝に出会えなかったのかも分かった気がしました。
■男と男の対立から、全学連闘争版ロミオとジュリエットへ
僕が読んだ戯曲集に収録されていた飛龍伝が上演されたのは、読んだ時期から逆算すれば80年代で、つかさんの中では、学生運動側の男と機動隊側の男の対立と同感のないまぜになった話にしたかったのだと思う。
一方で、僕が上京し、東京で演劇を見るようになった1990年代後半から、2000年代にかけて、時代は変わり、つかさん自身、この脚本のそのままのイメージを商業演劇の舞台に乗せるために解釈を変えざる得なかった作品なんだと思う。
すべての作品を口だてで演出するというつか作品の、大きな成長というか進化をこれほど劇的に遂げた作品はあまりないのだと思う。(熱海殺人事件も相当に変わっていた作品だが、それでも根底的な話の構造まで変わったわけではない。)
事実、神林美智子に様々な女優を当てた新・飛龍伝は、多くの観客が呼べる名作中の名作へと変貌した。僕自身も、2001年に内田有紀さんが神林をやったバージョンを見ている。
それを、八十年代のままの舞台として上演することの価値は高いし、挑戦した劇団に頭がさがる思いだ
初めて出会った時の戯曲が、こうして(素直な形で)上演されるのをみて、この芝居は改めて難解で、役者を選ぼ、演出を選ぶものだと気づいた。
■全学連闘争、革命講座に秘められた意味
改めて、この舞台を見て、全学連闘争、安保闘争とはなんだったのかと思う
僕も、つかさんも学生運動には関わりのなかった世代だ。
それでも、世代の近いつかさんは、学生運動世代について冷めた目線で分析していたのだろう
革命を志す学生たちは実は、ええとこの子で、プロレタリアのま逆に位置にいる。
一方で、(実際は分からないが)機動隊としてかれらを弾圧する立場の人たちは、大学に行けないようなある意味プロレタリアの人びとが多数含まれ、正義は別にしてその闘争そのものに意味を見出している
闘争から時間がたった舞台設定に際して、持つべきものたちが革命を忘れ去る中で、持たざるものたちであり革命を否定する立場にあったはずの機動隊の山崎の闘争にかける思いの叫びは哀しい。
戯曲を読んだ時、出ずっぱりの熊田留吉が、この物語の主人公だとおもっていたが、今日見ていて、かかえる闇の深さで、山崎が優っていることを思い知った
挫折者として生きる熊田、そうさせながらも再びの対立へと期待をする山崎。
学生運動の学生ではなく、機動隊側の思いに物語を見出したつかさんはすごいと改めて思いました。
■錦織一清さんの演出は、素直で、役者のパワーがすごい。
今回、演出にあたった錦織一清さんが、つかこうへいさんの出会いとなった舞台は、僕も見た舞台だった。まさか、将来に錦織一清さんがつかさんの作品を演出する日が来て、それを見る日が来るとは思わなかった。当時の錦織一清さんは(まだ)バリバリのアイドルだった。
3人の役者は、一瞬たりとも気を抜くことがなく真剣勝負の舞台、久しぶりに堪能しました。3人共、また別の舞台で見たい役者さんでした。
■ガイドは面白かった。
今の時代に、この舞台をやるために、ガイド(栗林真弓)が最初についたのは良かったです。全学連、セクト、アジビラ、オルグ、挫折、日和るなどという解説を加えたのは正解でした。だいぶ、芝居を理解する上で助かりました。
もっと淡々とガイドするかと思いましたが、ちょっとオーバー気味の演技で説明してもらったのも良かったです。
舞台見てて気付きましたが、学生闘争以外にインベーダーゲームも解説したほうがよかったかもしれません。僕より若い人にはあれもきっとピンと来ていないと思いました。
過去に見た飛龍伝
2001年 小丸オンライン版
1997年 O2コーポ-レーション版
学生時代に飛龍伝を読んだ戯曲集は、↓これ。
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