演劇とかの感想文ブログ

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書評

[書評]スティーヴン・バクスター「タイム・シップ」

投稿日:2017/01/16 更新日:

ちょっと古いSFを読むことに最近はまり気味です。この本は、スティーブン•バクスターの1995年の作品です。僕ががっつりSFを読んでいたのは大学時代(90年)までなので、古いと言ってもバクスターは僕にとってはあまり馴染みのある作家ではありません。(多分、この本が彼の作品を読んだ初めての経験です。)
アシモフやクラーク、ハインラインなんかよりバクスターは一世代以上若い作家さんだと思います
タイムシップは、その作家さんがSF史上に燦然と輝くH.Gウェルズの名作「タイムマシン」の続編として書いた作品です。(以下、ネタバレしています)

十九世紀の物語を二十世紀にタイムトラベル

ウェルズの作品は、SFという文学作品を生み出した黎明期の作品としては、勿論素晴らしいのですが、科学知識がものを言う時代にあって彼の作品は古典としての価値はともかく、SFとしての魅力は少々疑問符つきます。後年のSFに多大な影響を与えたとはいえ、オリジナルのアイデアでは面白みに限界があると感じます。
それでも、途方もない未来に行ったという物語のタイムマシンものであれば、彼の作品を受け継いだ話を書いても面白いかもと思い購入しました。(後で、知りましたが、この作品はウェルズの遺族から正式に続編と認められているそうです)
結論から言うとそんなあまちょろいものではなく、彼の作品舞台を借りた重厚なハードSFでした



元々、途方もない話であるタイムマシンの物語をここまで広げてくるかという壮大さ。話のスケールの大きさで言うとフレデリック•ポールの「タウゼロ」並か、それ以上です。

20世紀的SFギミック満載

物語は、19世紀のウェルズのタイムマシンのラストシーン、再び未来に向かって主人公が向かうところから始まります。
そして、たどり着いたのは前回のトラベルとは大分異なった世界。
そこで、タイムマシンもので定番の歴史改変が、なされたことに気付くのです(勿論、ウェルズが書いた時点でそんな概念はなかったわけですが)
未来のモーロック(本人は否定しましたが)は、前回のトラベルの時のような知性のないハイエナ人類ではなく明らかに新しい超知性の人類です。ネポシフェルという名前まで持っていて、きちんと英語で会話ができます。

彼らの超知性は、太陽の周りを覆い尽くすことでそのエネルギーを使い尽くすダイソンズスクエアを作り出して繁栄を築いていました(これも20世紀に入ってからのSF的アイデア)

ほとんどの生活に必要な物資は、地面から自動的に生み出され、太陽からのエネルギーを余さず活用しているため、元の地球は太陽の光の届かない暗黒の世界に変わっています。モーロックの社会のイメージはとても異様でありながら魅力的で、この部分だけでも十分に読み応えがありました。が、主人公は、辛くもそこからの脱出を図ります

脱出、繰り返される歴史改変。

歴史改変しないように、タイムマシン製作前の自分に会いに行き更なる歴史改変をしてしまう主人公は、更に改変された第一次世界大戦が終わっていない20世紀中頃の世界へ連れ去られます。ロンドン市民は、ドイツの攻撃に対抗するためドームに覆われた仲で暮らしている。このあたりで、登場する様々な人物は、ウィキペディアで調べると実在した人がほとんどで、とても良く書かれています。

そこから逃げ出した主人公は、なんと白亜紀の直後の暁新世へのトラベル。そこにイギリス、ドイツのタイムマシン軍隊が追ってきて、暁新世で戦った末に、そこに、住み着いてしまいます。当然、恐ろしく早い時代に出現した人類は、大きく歴史を変えてしまい、子孫たちは新たな存在(建設者)になって銀河系全域が植民地化された世界に変貌させてしまいます。そこからさらに…

予想を大きく上回ったラストに向けての息詰まる展開

タイムマシンもののSFは、とはいえ人類の歴史の中で行ったり来たりが、普通というか良くある展開なわけですが、この話はもととなったウェルズの話を大きく上回る時間の前後を行きつ戻りつします

そのトラベルの度に新たに生まれる世界を行き交うことで、やがて最適化された世界という概念に行き着くという展開のあたりになると、正直、作者の書こうとしている世界をちゃんとキャッチアップ出来たのかが不安になるほど抽象的な世界観になっていきます

そうか、こう終わるのかと終わった後に余韻が残る

電子書籍で読むメリットなのかデメリットなのか分かりませんが、残りページ数をあまり実感しないで読めるという特徴があります(電子書籍アプリによります)

そのため、この物語を、読む中で何度も、今読んでいる章が最終章だろうと思うシーンが何度も出てきました

時の果てにたどり着いたとき、最適化された世界で個人としての人格を保有したまま全宇宙が知性体であるという何かに主人公が組み込まれたとき

その時、その時にそれなりにカタルシスとあり本当にこのページを繰ったら終わりだろうと何度も思いました。

しかし、それを何度も裏切られ、物語は続いていきました。(勿論目次を見れば、今自分がどの辺を読んでいるのかは分かるはずでしたが、途中から意地になって、目次はまったく見ずに読み進めました)

本当に物語が終わったときは、逆に、「えっ?」と言うほどの唐突感を感じてしまいました
そして、しばらく考えて「確かに、こう終わるしかないな」と呟いてしまいました。

ちなみに、方向性は違いますが、途方もない壮大さで思い出させてくれたポール・アンダーソンの「タウ・ゼロ」も未読であればおすすめです。(電子書籍化されていないようですが)

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