[劇評]劇団ダブルデック「□はワザワイノモト」@すみだパークスタジオ倉(とうきょうスカイツリー)

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作り込まれ過ぎのキャラクターやボッブな音楽に合わせたぬるいダンス(若いのに!!)という特徴はかわらぬままも、ストーリーは随分とわかりやすくなり、先に何がまっているかわからない話の盛り上がりもキッチリ作られていて楽しめました。(私の中では)大きな劇場への進出した作品ですが、出来も過去に見たどれよりもよかったです


劇団 劇団ダブルデック
題名 □はワザワイノモト
公演期間 2018/08/092018/08/12

ゴロ六郎

演出 ゴロ六郎
出演 吉川瑛紀:形方 正(けいほう ただし)(高校時代のパソコン部部長 優等生)
勝又美晴:区力宇 稀(くちからう まれ)(「クッチー」しゃべくりまくるDJ)
松原圭:真岡 楼(もおか ろう)(ITのわからないIT企業社長)
來住美保:品田 回乃(ひんだ かいの)(カリスマファッションクリエーター)
田口ともみ:嘉杢 菜子(かもく なこ)(寡黙で思ったことがなかなか口にだせない)
小島葉平:梅岡 急在造(うめおか しぇえぞう)(パソコン部顧問)
中川慎太郎ピエール谷(ぴえーる たに)(高校の近くにできたバーのマスター)
はりゆうき:千手 酢負夫(せんて すぽお)(フリーライターで事件の匂いを嗅ぐ)
松島やすこ:納利欲 貴美(嘉杢の助手・銀髪)
岡みのり:形方 参(けいほう まいる)(正の妻・テニスサークルの後輩)
鶴たけ子:形方 長(けいほう おさ)(正の息子・4歳)
田中心太:魔寧 ジャン(芸能マネージャー・クッチーを発掘)
八谷しほ:鰤古 きやら(ぶりこ きやら)(お天気レポーターから女子アナ)
稲垣晋太郎:点佐 畏多郎(てんさ いたろう)(スーパープログラマ)
小山ごろー:落屋 妥詩代(おちや だしよ)(スーパー秘書)
小倉槍:逢賜 輝(あいし てる)(回乃の恋人・テレビ局のAD)
ワタナ・ベリヨ:マドカゼロマル(まどかぜろまる)(回乃の師匠)
上田早弥子:逢賜の母娘ほか
實川節朗:芸能事務所社長ほか
さんなぎ:梅岡の妻、校則に厳しい女教師ほか
大野皓太朗:正の会社の上司ほか
田口未久:正の会社の部下ほか
劇場
すみだパークスタジオ倉(とうきょうスカイツリー)
観劇日 2018/8/9(ソワレ)

目次

気づけば、4回目の観劇

最初に見たときに「ついてけないなぁ」とか、感じた(2013年)くせに、気づけば4回目。見るたびにこっちが慣れてきているのか、はたまた劇作がよくなっているのか面白くなってきています

今回は、夏休みを取る予定と重なり通常であればみれないところでしたが、平日20時開演という素晴らしい公演開始時間の設定をしてくれたおかげで、初日に足を運ぶことができました
先日「卵の翼」で訪れたのと同じすみだパークスタジオ倉での公演。最初がタイニイアリスだったことを考えれば、この劇場を超満員にする動員力も劇団の成長の証なのかもしれません

以下は、ネタバレを含みます

個性が強い劇団で他の例が浮かばない

ま、最近の劇団をたくさんみているわけではないからというのもありますが、かなり個性的な劇団で、他の劇団の公演とは内容が一線を画しています(いいほうかどうかは別にして)

そのため、過去に見た記憶をたどったときにこの劇団の作品と他の劇団の作品を混同することはほぼありません

この劇団の公演の特徴は主に以下のようなところでしょうか?

  • キャラクタ名が意味深…というかダジャレ
  • あわせてキャラクタの個性がギャグ漫画的
  • オーバーアクション/意味不明語尾/変顔の多用(女優でも容赦なし)
  • 音楽を多用する。割に、ダンスにキレがない
  • 締切演出。物語中に締切が設定されていてその締切に向かって盛り上がる
  • 静かな演劇の対極。20世紀的/アングラ的演出

このあたりは、初見(2013年 第5回公演「ググルくん!?」あたりから変わっていません

そのため、一度見ると忘れられない劇団ではあると思います(実際わすれてないし)

一方で、キャラクタの造形が身近になってきていて、最近はこの人と思う何人かを追うことで物語の起伏が伝わってきて、舞台上の登場人物に対して感情移入して見ることができるようになりました

個々の役者の素が見たくなる。魅力的な役者は多い

上記の特徴のある公演に出ているため、舞台上の登場人物の素がなかなか見えてきません

勿論、この登場人物を演じきっているだけでも、大したもんだなと思うが、例えば喋り方はめちゃくちゃ制約されている品田 回乃役の來住美保さんや、クッチー役の勝又美晴さんは普通に演技したらどういう女優なんだろうと思いながら見てました

松島やすこさんは、過去にこの劇団でしか見たことがない役者さんですが、出てくるたびにイメージが変わっていて今回の役も予め配役表を見ていなかったら絶対にわからなかったような特徴的な役で、彼女も本来はどんな演技をする人なのか見てみたくなる方です

男優だと、背が高い(前回はちっちゃい鶴たけ子さんとの漫才で印象に残っている)千手 酢負夫役のはりゆうきさんも、素がわかりにくですが、なんか面白そうな役者だなと感じています(そういえば、前回と名前が違っている…名前変えた?)

実は、一番素っぽい演技が見れたのは、オープニングの雨の中同窓生が集まるシーンでここだけは演出がほぼ効いていない感じでしたが、さすがにここだけで素を推し量るのもねぇ

振り切った演技で作られる独特の世界観

それでも、その振り切った演技によって、この劇団の世界観は作られているのは確かでそれをキッチリやりきる役者陣及び演出力は素晴らしいです

上記の素を見たいといったのは、この劇団でというわけではなくて、他の劇団の他の舞台でという意味合いが強い

今回は、高校時代の同じクラブだった5人の男女が各々自分の道を歩んだあとに出会うというある意味ありきたりな話でありながら、個々のキャラの歩んだ道の回想だの現実だのの描写が、漫画的な演出でテンポ良く語られる様はかなり心地良い経験です

これを普通のキャラで普通に演じられたら多分、かったるくなってしまうだろうと考えると、このキャラ付けの演出の効果は絶大です

会話もモノローグも20世紀のアングラ芝居を思い出させるような全員客席目線でしゃべる(or叫ぶ)という演技は、私にとっては懐かしいですが、意外に今となっては新しいのかもしれません

ただ、物語が会話ではなくモノローグで前に進む脚本はもう少し改良の余地があるように思います

繰り返しにより螺旋状に深化していく物語構造が良い

「One More Time!」で始まる曲が劇中で何度も流れ、その度にこのストーリーのキーパーソン嘉杢 菜子(田口ともみさん)とのエピソードが明かされていく他の同級生たち

こういうみんなが主役演出は嫌いなのですが、今回は個々のエピソードが微妙に重なり合っていて単なるエピソード披露大会の様相ではないストーリー展開になっていました

エピソードが明かされるたびに謎が深まっていき、最後に何が起こるのかが益々わからなくなる感じは良かったです

後半に進むに連れての盛り上がり方が良かったですし、過去への回想を経るたびに現実世界の緊迫度があがっていくという展開は見応えがありました

最後に、まっていた結末も予想を裏切ってくれてよかったです

今までに見たこの劇団の舞台のもう一つの特徴かもしれませんが、テクノロジーが人々の悩みの根源を解決してくれるかもしれないという未来観は、劇団の若さも相まって印象に残るものでした(そのテクノロジーがドラえもんのポケットから出てきそうなものばかりなのは、愛嬌ですが)

いつもは、過去の舞台では(誰にも感情移入できなかった最初の作品以外)、男優に感情移入しながら見ることが多かったのですが、今回は最後のあたりで田口ともみさんがいいところをかっさらっていきました

彼女の表情豊かな最後の台詞回しは、他のキャラ設定が被されている登場人物の中ではかなり異質で印象に残りました

それだけに、あの鼻眼鏡は相当イケてなかったと思います。顔が見える小道具でも、物語としては成立するだろう。なんでよりによって鼻眼鏡なんだ!!!とちょっと最後にイラついてました

ダンス?群舞?見どころなんだけど少し不満

正直、50代を超えるおじさんたちのダンス込のコント公演を最近見に行ったばかりの身としては、若いんだからもうちょっと頑張って欲しいと思ってしまいます

とはいえ、これだけの人数の俳優が群舞をする様はそれなりに圧巻で、広い劇場を使い切っていると思いました

実は、役者の表情を見たくていつもの癖で前から2番めとかの座席に座ってしまったが、もう少し後ろから俯瞰で見れたほうが印象が変わったかもしれません

多分、ぬるいと感じるのは、キメがほとんどないからなんだよなぁとか思います。素人なんでそれ以上なにかが論評できるわけではないのですが、なんかそういう「キモチイイ」シーンがあるとダンスシーンがもっと見やすくなるように思いました

まだまだ、良くなりそう!!

初日だったせいか、前半のテンポは少々まどろっこしいところがありました

例えば、バーの店主のピエール谷(中川慎太郎さん)の登場シーンや一人で場をつなぐシーンあたりはまだ客席を探っているような感じがあって居心地の悪さを感じました
吹っ切れないと面白くない役(この芝居は、ほとんどの役がそうですが)なので、そこは頑張ってほしかったです
一方で、はりさんと二人のしつこいまでの常連さんとバーテンダーのやりとりは、面白かったです(後半になると何やってんだかわからなくなりましたが)

でも、上記のように後半になるにつれて出来が幾何級数的によくなってくるので、100分の上演時間の長さを感じることはありませんでした

カーテンコールの潔さも好感がもてました(遅い時間開演ということもあり、シンプルなカーテンコールは助かりました)

以上 劇団ダブルデック「□はワザワイノモト」の感想記事でした

余談

物語の中に、AIの開発のために、バーや会社での喋っている内容を回収して活用しているという事を語るところで、「個人情報はきちんと暗号化して保護している云々」の台詞がありましたが、いるかなぁ。なんか、物語の展開上もいらないし、笑いがとれているわけでもない

テレビ番組の「この後スタッフがおいしくいただきました」的なエクスキューズで、文句がでるのを予め抑えているみたいだけど、テレビじゃないんだからいらなくね?

仕事ではしつこいくらいにこの問題を扱っているので、敏感になっているだけかもしれないが…なんか違和感がありました

過去のダブルデック作品の観劇歴



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