Theatre des Annales「従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ攻勢の夜に弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔の上で辿り着いた最後の一行“──およそ語り得るものについては明晰に語られ得る/しかし語り得ぬことについて人は沈黙せねばならない”という言葉により何を殺し何を生きようと祈ったのか? という語り得ずただ示されるのみの事実にまつわる物語」@こまばアゴラ劇場

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題名が長いが、前回の公演の評判がものすごくよかったので足を運びました。

■テキスト(脚本)と極限まで引き出された役者のテンションが高いところで、火花を散らす。

翻訳ものを思わせる密室劇。死と隣りあわせの中で語られる形而上学的な会話。緊迫と高いテンション。戦場ならでは生死と隣合わせの環境だからこそ出てくるむき出しの感情のぶつかり合い。
この舞台を構成するすべてが、刺激的な体験でした。

劇団 Theatre des Annales
題名 従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ攻勢の夜に弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔の上で辿り着いた最後の一行“──およそ語り得るものについては明晰に語られ得る/しかし語り得ぬことについて人は沈黙せねばならない”という言葉により何を殺し何を生きようと祈ったのか? という語り得ずただ示されるのみの事実にまつわる物語
公演期間 2015/10/15~2015/10/27
作・演出 谷賢一
出演 古河耕史、榊原毅、大原研二、小沢道成、本折智史
劇場 こまばアゴラ劇場(駒場東大前)
観劇日 2015年10月25日

■ウィトゲンシュタインは知らないが、何故か惹きこまれる。

 ウィトゲンシュタインの名前ぐらいは、学校の倫理や哲学の授業で聞いたはずだが、学校で教えるのは哲学史でしかなく、彼の思想に入り込んだ考え方を聞いた覚えはない。

 ウィトゲンシュタインや哲学について、知らない自分が見ていて、彼が何をなしとげたのかを推し量るのは難しい。しかし、パンとソーセージとタバコによる戦場の抽象化から端を発し、その狭い部屋の中では到底表現しきれない宇宙をも表現しつくす事が可能である言葉による抽象化に至る部分は、その時の救われるような役者の表情をみていてなんとなく理解できたような気がした。

■神の存在可否についての問答が、何度も繰り返されたのも興味深い

 神は死んだと語る現実主義の兵士たち。神の実存を信じることが困難な兵士たちの中で、神の存在のありやなしやは語り尽くせぬ「何か」なのだろうと考えました。

 原子によって全てのものが形作られるという実利主義者の兵士との問答のなかで、愛や重力、風といったものを構成する原子の存在を答えられない。

 神をそれらと同様に原子で構成できないが確かにあるものではないかという問いかけこそ、明晰には語りえないからこそ沈黙せざる得ない問いかけの一つだったのでしょうか?

 あれほどに、神の存在を否定した直後に、クリムトを神と呼ぶ兵士。神とは何かという、特に日本人にはわかりにくい会話がこの作品を翻訳ものっぽく感じさせている部分なのだろうと思った。一方で、キリスト教の精神にとっぷりつかっている西洋人には、本当はこのような会話はピンと来ないのかもしれないとも思いました。

 「神が死んだ」という言葉も、ウィトゲンシュタインだったのかな?と思いましたが、これはニーチェの言葉。ヴィトゲンシュタインが、彼の作品(アンチ・キリスト)を読んだようですが、その作品の中の言葉でもないようです。

 

■翻訳ものっぽい作りだが、この神学論争や哲学論争が果たして西洋人にピンとくるものなのか?

 翻訳して、西洋人に見てもらいたいと思う作品だった。この会話が西洋において普遍的なのかどうか、すごく興味深い。哲学や神学に対しての彼我の差があるように感じる。日本人がこの物語を書いたのが日本人だからこそできたのか、そこを知りたいとおもいました。

■素晴らしい役者さんたちでした。

 俳優は、皆さん、非常に魅力的で、真摯な演技に心を打たれました。

 特に、ウィトゲンシュタインの友人(恋人?)役と彼を馬鹿にしてからかう兵士の 二役をシームレスに演じる本折智史さんの演技には鳥肌がたった。目まぐるしく変わるのに、表情というか瞳の表情でその二人格を演技分けてました

■パンフレット…買えば良かった。

 sunchildさんの劇評を読むと、副読本的なパンフレットが劇場では売られていた模様。

 この舞台については、何度も反芻し、咀嚼したくなるテキストだったこともあり、そんなパンフレットならば買っておけばよかったと悔やみました。あまりパンフレットに期待することがないため、売っていたことさえ、知りませんでした。

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