[劇評]LiveUpCapsules「見晴らす丘の紳士」@北とぴあ・ペガサスホール(王子)

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渋沢栄一伝。タイムマシンのように時間を行きつ戻りつ。舞台上でそれを表現するための宮原将護さんの変幻自在さがすごい。一方で、一人の人生にフォーカスを当てたが故に他の魅力的な男優陣が印象に残りにくかったのは残念

劇団 LiveUpCapsules
題名 見晴らす丘の紳士
公演期間 2018/03/072018/03/11

村田裕子

演出 村田裕子
出演 宮原将護 :渋沢栄一
山形敏之:八十島親徳
桂弘 :男1
藤代海 :男2
弓削郎 :男3
菊池真之 :男4
遠藤綱幸:男5
鈴木大倫 :男6
山田隼平 :金子直吉
劇場
北とぴあ・ペガサスホール(王子)
観劇日 2018年03月11日(マチネ)

物語

王子駅からほど遠くない森の中にある渋沢栄一邸には、今日も多くの人たちが訪ねてくる

500を超える企業の立ち上げに関わり、日本の資本主義の父と称される彼は、幕臣として最後の将軍に仕え、明治官僚を経て実業に身を投じた自らの過去を懐かしみつつ日々を忙しく送っている

皮肉にも彼が設立に腐心した株式市場において、成り上がった男に牛耳られた日本精糖は、彼自身の判断ミスもあり、窮地に陥っていた

一縷の望みを持って、渋沢邸を訪れた日本精糖の社員たちを前に渋沢が告げた再建人の名前は、驚くべきものだった..

渋沢栄一役の宮原さんの変幻自在さが凄い

若々しい見た目で現れた宮原さんは、物語序盤ではかなりの高齢の様子。その様子を演技力(声音、歩き方、喋るスピードと言葉遣い)で演じきってすぐに年齢設定に違和感がなくなった時に、宮原さんの演技力に舌を巻きました

しかし、本当に凄いのはこの後でした

現れる様々な関係者に応じて、自身の過去を懐かしむシーンは、そのままその時の再現になり、年齢も一気に若返ります

幕末に幕臣として、血気盛んだった時代を思い出すシーンでは、照明の切り替えとともに恐ろしく若い渋沢栄一に変わります

目つき、腰構え、体制、声すべてが一瞬で国家の為に命を投げ出さんとする若者になり、その次の瞬間また現実の老人に戻る

この手の目まぐるしい変化を1時間40分の上演時間の間に数え切れないほど繰り返し、破綻しない演技力は本当にすごいと思いました

周囲もまた宮原さんに負けぬ変幻を

おそらく、登場する役の数は数十に渡っていたように気がしますが、その役のほとんどは、男6人で演じ分けられます

年齢を演じ分ける宮原さんとはまた違い、方言や表情、声の高低を駆使しながら明治の元勲から市井の庶民、柄の悪い面々までこれまためまぐるしい変幻を演じ分けられる役者の皆様のちからにもかなり感心しました

前回作品に比べると少し不満が残りました

そもそも、今回足を運んだのは前回作品の「スパイに口紅」を見てよかったからでした

この作品は、サスペンス色があって、個々の登場人物が各々が魅力的で、物語も一つの方向に向かっていく見応えのある物語でした

それに比べると、今回の物語は、ドキドキ感が少ないと感じました

渋沢栄一の多岐に渡る業績がわかる会話をワイワイガヤガヤと詰め込むかという手法は、彼の偉大さを語る上では適切な方法だったと思いますが、結果として起伏が少ない物語になってしまいました(それはそれで見応えはあったのですが)

最後に、いきなり日本精糖の事件がクローズアップされることで、山場を持ってきていたのですが、あまり上手くいっていなかったように思います

渋沢栄一の誠実さ、そしてそれでも思い通りにならない無力感、金子直吉の渋沢栄一への尊敬という様々な想いが錯綜するラストシーンは、難しいシーンでした。その中で、金子直吉を演じた山田隼平さんの迫力は中々のもので、目をみはるものがありました

渋沢栄一にさえ、感情移入が難しい

演じている役者さんのせいではなく、これは脚本/演出の問題だと思うのですが、この物語で誰かに感情移入をすることができませんでした

歴史的な有名人物を含む超多役をこなす男1〜6の皆さんの誰かに感情移入することができないのは勿論のことですが、主役である渋沢栄一も、回想シーンと現実の入り混じった脚本であること。また、高齢な渋沢栄一の達観したような態度を取ることが多かったことから、どうしても血の通った主人公に対して感じる共感を得にくかったと思いました

渋沢栄一の哲学にはうならされたました

終始冷静な渋沢栄一が激高するシーンが、後半の山場につながる日本製糖の経営陣への一喝でした

「経営をなめるな」という台詞は、渋沢栄一のすごさを伝わりました(本当の台詞であるかどうかわかりませんが)

効果的な音響効果、装置の設計と使い方には感心しました

音楽や音響効果に頼り切るような演出ではなく、抑えられていたと思いました。それだけに、要所で出てくる音響は効果的で子気味のいいものでした

装置も、渋沢栄一の机以外は、色々な種類の椅子のみ。常に多くの雑多な人が集まる場を現す象徴的な舞台装置でした

両面から客席が挟み込む舞台装置は、始まるまでは、役者の表情のすべてが見えないのではないかという不安を感じていまいたが、多くのセリフは歩きながら交わされて、客席全体を意識した演技をされていたり、非常に上手く使われていて、本当の舞台の広さ以上に広い渋沢邸を再現していました

以上 LiveUpCapsulesの「見晴らす丘の紳士」の舞台の感想記事でした

PS.ちなみに、舞台後じゃ、実際日本製糖はその後どうなったのかと気になって、色々調べたら以下の記事にたどり着きました

日糖不正事件

渋沢栄一は、別の人を(その人とも色々因縁はあったようですが)を立てて再建をさせたそうです

ある意味、自分でやるよりよほど困難な道だと思うと渋沢栄一ってすごい人だったんだなぁと改めて思いました

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