[劇評]PARCOプロデュース「大地(Social Distancing Version)」@ライブ配信

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悲壮な環境において、生き方を求める俳優たちの姿に心を打たれ、笑っていましたが、 最後に大どんでん返しを食らってしまいました。 久々の三谷さんの舞台にオンライン配信ながらすっかり引き込まれる3時間(休憩込み)でした

劇団 PARCOプロデュース
題名 大地(Social Distancing Version)
公演期間 2020/07/012020/08/23

三谷幸喜

演出 三谷幸喜
出演者  大泉洋:チャペック(主に裏方。便利屋)
 山本耕史:ブロツキー(映画スター。)
 竜星涼:ツベルチェク(女形。心は男)
 藤井隆:ピンカス(モノマネ芸人)
 濱田龍臣:ミミンコ(演劇専攻学生/語り手)
 まりゑ:ズデンガ(別施設の囚人。ミミンコの恋人)
 相島一之:ツルハ(演出家)
 浅野和之:プルーハ(世界的パントマイマー)
 辻萬長:バチェック(有名劇団座長。「座長」と呼ばれ)
 栗原英雄:ホデク(収容所指導員)
 小澤雄太:ドランスキー(政府役人)
劇場
オンライン配信(サンケイプリーぜホール(大阪))
観劇日 2020/8/23(マチネ)

目次

久々の三谷さん舞台、オンラインに救われて観劇

かつてはちょいちょい足を運んだ三谷さんの舞台でしたが、激戦のチケット争奪戦に疲弊し最近は足が遠のいていました。チケット発売日を確認して、抽選に申し込んで…ということがなんか大変と感じている自分がいます。

この舞台「大地」も、気になっていましたがコロナ渦の中で、チケット争奪に参加する余裕もなく観劇を諦めていました。が、Twitterで偶然ながれてきたオンライン配信の案内。チケットの購入は、開演直前までということです。 滑り込みで大千秋楽のチケットゲット!!しました

オンライン配信は、新しい生活様式の中でスタンダードの一つになってほしい

先日観劇した「アンチフィクション」に引き続きのオンライン配信観劇ですが、少しづつなれてきたこともありこの観劇形態も それはそれでありかなと感じています
もちろん、劇場に足を運び、生で役者さんの息遣いを感じる舞台観劇こそ王道であるのは否定しませんが、上記のようにチケット争奪戦に破れがちな身としては、オンライン配信というオプションが用意されるのはとても助かります

確かに、しばらくすればWOWOWなどで録画放映されることも多く、また観劇三昧など録画配信サービスもありますが、それとは違う生中継でオンライン配信を見るのが、 緊張感もあってワタシ的には心地よいです
(どうしても、録画配信サービスはいつでも見れるというメリットが僕にとっては悪い方に働いていつまでも見ないということになってしまいます)

スポーツ観戦も、スタジアムや競技場に行って見るだけではなく、テレビ観戦というのがあることが定着していますが、演劇もそういう文化に変わっていかないかなぁと思っています。 更にコストがかかるのは承知しているのですが…

メインの二人を支える脇が素晴らしい

この舞台は、割と主役がはっきりしていて、語り手の松田さん(初舞台!)と大泉洋さんのみが心象を語るシーンがある一方で、他の役者さんたちは、その人の心情を表現するシーンよりもシーンごとの役割があって見せ場があるような配役になっている

とはいえ、芝居の中ではその 松田さんと大泉さん以外の役者さんの存在感がハンパないです

山本耕史さんのかっこいいのに抜けている2枚め俳優に笑い、不幸な芸人の藤井隆さんに笑い、浅野さんのパントマイムに驚嘆し、人間として駄目だけど役者としては素晴らしい辻万長さんの演技と人間性に笑い…とシーンごとに目を奪われ続けます

今回女形役だった竜星涼さんは、前回僕が舞台でみたのは「修羅天魔」での女形役。竜星涼さんについては女形の似合う役者さんというイメージが僕の中で固定しそうです😁

紅一点のまりゑさんは、いわゆるヒロイン然としていない非常にさばけた役で、出てきたときはびっくりしました。でもかなり魅力的な女優さんで今後の出演作をチェックしたいと思いました

大泉洋さん、うまいなぁ

いや、知ってましたが。改めて。
最近、テレビで20年以上前の「水曜どうでしょう」を見ているので、かなりおちゃらけた大泉さんのイメージが頭に刷り込まれていて、舞台上の人と同一人物とは到底思えません。
明るくて、少し屈折した舞台人である●●は、ある意味現実世界でどこにでもいる「居場所を探し続ける人」だと思いました。それだけに、つい感情移入をしてしまいます( その観客の感情移入さえも三谷さんの策略であることは、終盤でわかるわけですが

ここからはネタバレします

演劇を求める力、演劇の力がマザマザと

いつともどこともしれない(おそらくロシアがその周辺で20世紀のいつか?)独裁者に支配された国での芸能関係者のみが集められた強制収容所が物語の舞台です

演劇や映画といった演じることを否定された役者や大道芸人たちが集い、日々強制労働に駆り出される中で、彼らが演じているのは演劇でした

くだらない芝居でも演劇をやる喜びが伝わる

演劇好きの収容所指導員が書いたくだらない脚本でありながら、その舞台を作っている姿は生き生きとして見えました。結局完成版ができたわけではありませんでしたが、この舞台を作っているシーンは、コロナ渦における舞台上演が制限されている現実と重なりなんとも言えない気分で見ていました。

演劇を作る人から演じることを奪うことの残酷さ、そしてどのような環境下にあっても芝居を求める情熱のようなものを感じるシーンでした

演劇の力が現実を変える

ちょっと大げさですが、強制収容所という環境の中で儚い恋を成就させるための役者たちの大芝居は、別の意味で演劇の力を感じさせてくれました。

演じることで、権力者を翻弄し手玉に取る。何もなくても、演技の力で乗り越える
観客としては笑っちゃうシーンですが、もしも本物の俳優が本気の演技を自分だけに対してやられればきっと笑っていられなくなる。演劇/演技の凄みを感じさせてくれるシーンでした

このシーンだけではなく、食事抜きを申し渡されてマイムで宴会を始める役者たちをみて呆然とするドランスキー(政府役人)の姿が、その力を実感させてくれました

ソーシャルディスタンシングバージョン以外も見てみたい

終演後のカーテンコールで、大泉さんは冗談交じりに続編への期待を言ってましたが、そもそもコロナ渦で上演されたがゆえに三谷さんが途中で大幅に演出及び脚本を変えたという本作について、オリジナルがどうだったのかはちょっと気になる

いつかそれが見れるといいなぁとちょっと思いました

60日間の完走

とはいえ、三谷さんらしい徹底ぶりで本を変え、演出を変えてのこの舞台。カーテンコールの中でも、舞台関係者の数を減らし、全員にPCR検査を行った上で制作に入り、そのメンバーの中でのみ生活するような形で東京/大阪の2都市公演を完走しきったことは商業演劇に限らず舞台/エンタメ業界にとって大きな一歩であるはずだ。

そういった意味でも、この舞台を(オンラインとはいえ)見ることができたのは、良かったと思いました。

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