[映画評]ジョー・ライト「ウィンストン・チャーチル」舞台作品のように出演者の絞られた濃密な政治劇

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日本人の特殊メイクアーティスト辻さんがアカデミー賞を受賞したことで話題になった本作ですが、主演のオールドマンを中心として本当に話の筋に関係してくるキャストが絞り込まれていて濃密な会話劇といった趣がありました

もっと長期の在任期間をドラマにするのかと思いましたが、就任からほんの1ヶ月ほどの物語として語られる中で、老齢なチャーチルがそれでも「成長」していく様に感動を覚えました

予告編

ゲイリー・オールドマンが大好きです

大学時代に、パンクバンド・SEX PISTOLSのボーカル シド・ヴィシャスを描いた「シド・アンド・ナンシー」という映画の中で退廃的かつ無鉄砲な…端的に言えばイカれた主人公を演じた俳優として彼の名前を覚えてから、実に30年近く彼の映画を気にしてきました(とても全部は見れていませんが)

それでも、ジャン・レノ主演の「レオン」のヤク中のイカれた刑事、フィフス・エレメントで見せたイカれた武器商人とイカれた役(大概悪役)をやっている姿が本当に良くて、エキセントリックなだけでない、脇役や敵役であっても存在感が半端ないところが好きです

●シド・アンド・ナンシーのゲイリー・オールドマン

●レオンのゲイリー・オールドマン

●フィフス・エレメントのゲイリー・オールドマン

●ウィンストン・チャーチルのゲイリー・オールドマン

いや、顔変わりすぎです。さすが、特殊メイクアーティスト賞!!

一方で、ヤク中役(シド・アンド・ナンシー、レオン)を含め、タバコを吸いまくっているイメージは、今回のチャーチルも変わりません

というか、映画見終わって思ったのは、ウィンストン・チャーチルもかなりイカれた首相だということです

やはり、イカれた役には此の人しかいませんと思い直しました

実は、流石に歴史上の人物だし(過去にベートーヴェンとかもやっていますが)、イギリスの歴史上の英雄を演じるということで、結構重厚な演技をしてくるんだろうと思いましたが、そういった意味で演技の本質は変わっていないなと思いました

もともとシド・アンド・ナンシーのときでさえ、本物と見紛うほどの似せ方で演技をしてくるところが彼の強みだと考えれば、監督がゲイリー・オールドマンをこの役に指名したのは無理からぬ事だと思いました

以下は、ネタバレを含みます

まさに歴史の転換点。イギリスがここまで危機に瀕していたとは

正直、学校で学ぶ通り一遍の世界史では、当時のヒトラー第三帝国の勢いがここまでのものだったとは思えませんでした

映画上の演出もあるかもしれませんが、チェンバレン政権からチャーチルが政権を受け取った時のヨーロッパ情勢はまさにイギリスにとっては最悪の状態

フランスを助けるために派遣した30万人もの陸軍は、ドイツ軍に追い詰められて破滅の危機にありました

物語は、嫌われ者のチャーチルが、首相に任命され、ものすごく強気なようで妻や国王や市民に自分の弱みを見せ、その中で自らが選ぶべき道を探し続ける苦悩の様子が描かれます

原題のDARKEST HOURは、「一番苦しい時」を示す英語ですが、チャーチルにとっても、英国民にとっても最も苦しい時だったということかもしれません

映画の終わりは、上記の30万人を見事にチャーチルの指揮により救出するまでを描いて終わります(ダンケルクの撤退

驚くほどひ弱な首相

映画の始めのチャーチルは、たくさんの敵に囲まれたひ弱な首相です

奥様に、いつも諌められたり励まされたり。65歳だったようですが、それより大分年老いていたように見えます(この奥様役はイングリッシュ・ペイジェントに出てたクリスティン・スコット・トーマス。どうりでどっかで見たことがあると…)

ヒトラーの進撃に対してあまりに無力なヨーロッパに対して、閣内は着々とヒトラーとの和平協議の準備に入ります

チャーチルは悩み続け、弱気になります

名言集があるほどの演説の名手の彼が、自らの言葉に迷い、議会での原稿が完成しません

それを、励まし英国を(結果的には)正しい方向に導いた決断と演説を作らせたのは、市民であり、そしてその市民の声を聞くことを提案した国王でした
主人公が成長することこそが名作の要件だというのが私が映画や舞台を観るときのポリシーですが、まさか数々の政治的修羅場を経験したチャーチルが成長する姿が描かれるとはおもいませんでした

絞り込まれキャストによる濃密なセリフ劇

議会のシーンや市民に話を聞くシーンなど人がたくさん出て来るシーンもあるのですが、物語そのものはごく少数の登場人物によってのみすすみます

すなわち、チャーチル、ジョージ六世国王、前首相チェンバレン、ドイツ融和派の外相ハリファックス、チャーチルの妻、そしてチャーチルに密着し続ける秘書のみです

結果として、地味な会話のつながりとチャーチルの苦悩の時間が映画の大半を占めています

派手さはまったくありません。それでも上映時間を長いとは思いませんでした

英国を取り巻く情勢の緊迫感は、そのままチャーチルとその周りの緊迫感につながり、観るものにまでその緊張感がつたわってきます

なまじ細かい歴史を知らない故に先の見えない展開が息をつかせぬ映画になっていました

日本と似てない?

徹底抗戦を誓う最後の演説により議会を熱狂させるラストシーンをみつつ、違和感を感じていました

映画を観る限りの当時の英国の状況は、大陸を制覇しつつある第三帝国に対して本土決戦さえ辞さない絶望的な戦況に突入しようとしていました

国王がカナダに亡命することさえ検討している状況で、国民国家を全面戦争に巻き込む決断をしたチャーチルは、戦争に勝ったからこそ英雄視されていますが敗戦していれば大犯罪人扱いになりかねません

なんか、国王+首相がいるという政治体制が戦前の日本と似ていることもあり、戦争に導いた指導者に対しての評価の彼我の差を感じてしまいました

こういうのを見ると、結局日本が悪いのは負けたからなの?みたいな事を考えてしまいました

陰謀論者的な言い方で、当時の米国大統領のルーズベルトは、中立を守ってヨーロッパへの介入に消極的な世論を参戦に導くために日本に喧嘩を売ったいあうはなしがあります

日本はそれにまんまとのって、パールハーバーをやらかし、米国が参戦。ヨーロッパも英国の巻き返しに至る訳ですが、確かにこの映画を観てると日本がもう少し戦争を我慢すれば、ヨーロッパの状況はまるで違ったものになっていたかもしれないなと思いました

などと色々、近現代史について考えさせられる映画でした。ちょっとその辺の本を読んでみようかなと思ってみたりしました

以上 ジョー・ライト監督、ゲイリー・オールドマン主演の映画「ウィンストン・チャーチル」(原題 DARKEST HOUR)の鑑賞の感想記事でした

記事内で出てきたゲイリー・オールドマン出演作は以下です

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あと、チャーチルの妻を演じたクリスティン・スコット・トーマスの出演したイングリッシュ・ペイシェントも紹介しておきます
これもアカデミー賞をとってます(1996年)

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