[劇評]劇団☆新感線「メタルマクベス disc1」@IHIステージアラウンド東京(市場前)

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劇団☆新感線☓シェイクスピア☓宮藤官九郎が更にステージアラウンドで見るという贅沢。舞台設定などクドカンワールドの炸裂や、魔女の演出のように2006年版にはおそらくなかった演出も含めかなり楽しめる舞台でした


劇団 劇団☆新感線
題名 メタルマクベス Disc1
公演期間 2018/07/232018/08/31

宮藤官九郎

演出 いのうえひでのり
出演 橋本さとし:ランダムスター/マクベス橋本(レスポール国の将軍にして、No2/メタルマクベスのヴォーカル)
濱田めぐみ:ランダムスター夫人/ローズ/植本B(ローズ:メタルマクベスのマネジャー、ババァメタルのうえメタルのB面)
松下優也:レスポールJr/元きよし(レスポール国及び元オフィスの2代目)
山口馬木也:グレコ/マクダフ山口(レスポール国の忠臣/メタルマクベスのベーシスト)
猫背椿:グレコ夫人/シマコ/林(グレコとマクダフ山口の夫人/ババァメタルのはやしメタル)
粟根まこと:パール王/ナンプラー(隣国の王/メタルマクベスの無口なメンバー)
植本純米:植本/医者(うえメタル(ババァメタルセンター)、夢遊病の診察をする医者)
橋本じゅん:エクスプローラー/バンクォー橋本(ランダムスターの親友。メタルマクベスのギタリスト)
山本カナコ:森/老婆(ババァメタルのもりメタル、最後に生き残る老婆)
磯野慎吾:トーカイ/磯野君
吉田メタル:伝令係ヤマハ(なかなか伝令を報告させてもらえない)
村木仁:門番/杉(最後までランダムスターについていく側近)
冠徹弥:冠君(歌う報告者、最後までランダムスターの側近)
富川一人:マーシャル(エクスプローラーの子供)
小沢道成:ローマン/ユウキ(グレコ/マクダフ山口の息子)
穴沢裕介:新人ギタリスト/客/他
Erica:ホテルスタッフ/宝島少女/他
見目真菜:スタッフ/バンド関係者/他
齋藤志野:ファン/宝島少女/他
鈴木智久:バンドスタッフ/客/他
鈴木奈苗:ヘルス嬢/パリジェンヌ/他
橋本奈美:ホテルスタッフ/宝島少女/他
原慎一郎:処刑人/新人ベーシスト/他
山崎朱菜:ファン/バンド関係者/他
山崎翔太:フロント/兵士/他
米花剛史:マネージャー/兵士/他
渡辺翔太:記者/バンドスタッフ/他
藤家剛:兵士/記者/他
工藤孝裕:兵士/ホテルスタッフ/他
菊地雄人:兵士/パンクス/他
熊倉功:兵士/マーシャルお付き/他
あきつ來野良:兵士/新人ギタリスト/他
横田遼:兵士/パンクス/他
北川裕貴:兵士/パンクス/他
紀國谷亮輔:兵士/パンクス/他
【MUSICIANS】
岡崎司:guitar
髙井寿:guitar
福井ビン:base
松田翔:drums
松﨑雄一:keyboards
劇場
IHIステージアラウンド東京(市場前)
観劇日 2018/8/16(マチネ)

目次

橋本さとしさんが新感線に帰ってきた!!

と喜ぶ周囲がいる一方で、私自身は橋本さとしさんが新感線に所属していた時代を知っているわけではありません

とはいえ、じゅんさんとさとしさんの「W橋本」が揃ったこの舞台、是非とも見たい舞台でした

思えば、2006年の初演時に、「新感線がシェイクスピア!?」という話題性もあり気になっていたのですが、見逃しておりこの演目そのものの再演も相当嬉しいサプライズでした

橋本さとしさんは、主にミュージカル界隈で活躍されていることもあり、普段舞台で拝見することはほとんどないのですが、今回はそのミュージカル界の雄と四季出身の濱田めぐみさんの共演というのも楽しみなポイントでした

そして、その期待にそぐわぬ素晴らしい出来でした

ここからはネタバレします

(ストーリーのネタバレもあるので、Disc2,3を見る予定のある人も気をつけてください)

ババァメタルの印象が激しい!

始まった序盤でいきなりやられました

いや、ベビーメタルを好きな人が見たら、マジで怒り出しそうですが、マクベスの三人の魔女をベビーメタルに当てたのは秀逸でした

前回(2006年)時点には、ベビーメタルは存在しなかった訳で、それを今回は植本純米さん、猫背椿さん、山本カナコさんで老婆としてやるのは、今回の演出の大ヒットの一つだと思いました

夢に出てきそうです(当然悪夢)

一瞬、植本純米さん(しかし、この年でも女形が似合うのもすごい)が、濱田めぐみさんに入れ替わる演出も好きでした

もっと見たかったですが、脚本上あれが限界だよなぁ

本家が下の名前で呼びあうのが、こちらは名字で呼び合うあたりも、高齢者感出ていて面白かった

一幕後の最初に出た一言は…

うるさい…でした

いや、いつもガンガンの音響効果には慣れていましたが、新感線R系の舞台は考えてみれば今まで避けてきていたかもしれません(多分SHIROHとか、大江戸ロケットはそれにあたるのか?)

若い頃は、ロックコンサートみたいなものにも足を運んでいましたが、正直ここまで耳に負荷のかかるライブへ足を運んだのは久しぶり

若くないと少々疲弊を感じて一幕が終わりました

でかい音ってつかれるんだと久しぶりに実感

とはいえ、2幕始まってからは慣れました。人間の順応力はすごいです

クドカンワールド炸裂…なのか?

実は、終わった後は「以外にクドカンっぽさがないよなぁ」とか思ってしまいましたが、改めてブログを書くために舞台の内容を思い出していると、随所にクドカンっぽさがいっぱいありました

例えば、

冠徹弥さん(Wikipedia調べて知りましたがヘビメタの歌手なんですねこの方)が序盤で歌う戦場中継の歌

「Go To Hell」という歌詞をいちいち「Go To ヘルス」とか、「Go To ヘリ」とか、「Go To パリ」とか言い間違い、それにご丁寧に全部演出がつく(ヘルスに行くというとヘルス嬢が看板持って出てくるとか…)

こういうおバカ脚本は、ギャグ路線の新感線のときも含めてちょっとテイストが違っているように思います

(最近、ギャグ路線の新感線あんまりみにいっていないですが)

そもそも、ヘビメタとマクベスを融合して、近未来の日本の話に置き換えるというハチャメチャさは、クドカンならではの発想かもしれません

しかも、1980年代の売れないバンドの物語と近未来日本での血で血を洗うマクベスの世界が交錯する話に仕立てるあたりも流石です

なんか、「どうせ新感線なんだから、ヘビメタを合わせとけばいいんでしょう」的な適当な発想からうまれてきたような…(私の妄想です)

そういえば、濱田めぐみさんの「あたしヘビメタ嫌い」という台詞に対しての「新感線の舞台でヘビメタ全否定って…」という掛け合いも面白かった

でも、新感線=ヘビメタっていう定義、最近は少し弱まったように思うのだけどどうなんだろう

じゃ、なぜ終わった後には、そう感じなかったかというと、後半はかなりシェイクスピアの台詞に忠実なものが多かったように思ったからです

1997年にメジャー・リーグプロデュースで外国人の演出のマクベスを見たんですが、あまり良い印象がなかったのですが、今回はマクベスの話を再度見直すきっかけになりました

前回見たときのほうが、原作に忠実だったはずですが、このマクベスのほうがシェイクスピアのマクベスにより近い世界観を感じ取れたように思いました

マクベスとマクベス夫人の人物像に奥行きがあったように思いました

マクベスといえば、主君殺しの大悪人。マクベス夫人といえば、そのような悪行を自分の為に夫に強いる大悪女

そういう意味では、僕の中では中国の古典的名作封神演義に登場する魔物妲己のような悪女のイメージがマクベス夫人ののイメージだったのですが、今回見てだいぶ印象が変わりました

濱田めぐみさんが演じているからかもしれませんが、舞台中一貫して可愛らしさが彼女の個性として印象に残りました

確かに、怖気づく夫(橋本さとしさん)を奮い立たせ、主君殺しをさせるわけですが、それとても栄達のために良かれと思ってさせたことでけして自分の為というわけではありません

マクベス(=ランダムスター)の栄誉欲的なものも、この世界だから血なまぐさいものになっただけに思います

実際、物語が交錯する1980年代のバンド「メタルマクベス」は、そんな血なまぐさい事をするわけではなく単純に拾ってくれた事務所の社長を裏切り別の事務所に移っただけだったわけです

今回見ていて、マクベス夫人は、どっちかといえば功名が辻の山内一豊の妻みたいな人なんだなと思い直しました

濱田めぐみさんの演技に心を打たれました

特に、終盤のランダムスター夫人濱田めぐみさんが、夢遊病者になって死の間際になって、ランダムスターに語りかける謝罪の台詞は狂っているが故に出てきたであろう本音の台詞という感じでとても心に響きました

彼女の演技を見たのは、劇団四季のクレイジー・フォー・ユー以来なので、●年ぶり。当時は、かわいい女優さんでしたが、今回は強面をやるのかぁとか思っていましたが、可愛さがあってそれはそれで驚きでした

山口馬木也さんと橋本さとしさんの壮絶なる殺し合い

橋本さとしさんもミュージカル畑でありながら、あれほど殺陣が決まるとは思いませんでした

個人的には、橋本さとしさん演じるマクベスもあまり同情できるキャラクターではないと思っていたのですが、今回は彼の気持ちもわかるなぁと思わせる部分もありました

栄達を求めるために手段を選ばなかったことも、それで得た栄達の為に自らが苦しむ姿も現実世界によくある話だよなぁと思ったりして。

それだけに、そのマクベス(今回はランダムスター)を絶対悪として戦いを挑む山口馬木也さん演じるグレコ=マクダフの演技はストーリー上でものすごく大事だったのですが、山口さんの熱演はすごかったです。

山口さんは、昨年内野聖陽さん主演のハムレットでも演技をみていたのですが、その時の冷静な演技の印象が完全に塗り替わるほどの死をかけての戦いのシーンは凄かったです

正直、マクベスのストーリーをちゃんと覚えていなかったので、最後にランダムスターを倒すのが誰なのかわかっていなくて、だからこそ序盤の存在感の薄さから終盤にかけての変わりようはかなり印象に残りました

橋本さとしさん、じゅんさんとの掛け合いが面白くて、ずっと見てたかったのですが、元新感線の方と言われて見ているとちょっと他の劇団員と演技のテイストが異なっているように僕は感じました。やっぱり外部からの客演の方イメージに見えてしまいます。

長く離れるとそういうものなのかな(いた頃がどうだったのかわからないので、想像するしかないのですが)

劇場の使い方は、ちょっと疑問

劇場は、360度客席が回転することもさることながら、大迫力の映像が特徴のこの劇場
昨年は、この劇場で上演してほしい舞台について妄想する記事を書いたりしました

とはいえ、昨年のこけら落とし以来この劇場を使い続けている新感線のこと。使い方を知り尽くした上での演出だと思うのですが、私自身は「さすが!」と思うシーンと「うーん?」と思うシーンがありました

バイクの爆走シーンは圧巻

そうか、丸い劇場であれば、バイクで走り回ることができるんだと目からウロコでした
今までも舞台上にバイクが出てきた舞台はありましたが(大半新感線だった気がする…)、これほどたくさんしかも自然に走り回る舞台は初めてみました
戦争後の荒廃した未来。マッドマックスとか北斗の拳的な世界であるこの世界観に、バイクで走り回る演出はすごくあっていました

そんなにスピードを上げられるわけではないし、走る事ができる舞台幅そんなに広くないので結構、運転技術大変そうでした

映画を思わせるような人物を映すのはちょっといただけない

個人的な思いですが、劇場に行くからには役者さんは生で見たいです

今回は、なんか映像として役者さんの顔や姿を映像としてスクリーン(ほぼ全面スクリーンなわけなんですが)に映す演出が多用されています

例えば、怨霊的な西岡さんや山口さんの顔が大写しになったのはちょっと「げっ」と思いながら見てました

ああいう心象こそ、役者の演技で見せてほしかったなぁと思ったりしました

その他、舞台の転換をいちいち空撮映像で舞台が変わったり、エレベータに乗っている人がエレベータのカメラから映されている映像をみせるあたりもいるかなぁとか思ってみたり

ちょっと劇場設備に演出が振り回されているように感じてしまいました

原作再度読みたくなった

私は、どこかで

シェイクスピア作品は、
喜劇は必ず結婚式で終わり、
悲劇は必ず葬式で終わる

と読みました

事実、「真夏の夜の夢」「十二夜」などは結婚式で終わりました

また、「ハムレット」「ロミオとジュリエット」は、葬式で終わりました

そのため、悲劇であるマクベスは葬式でおわると確信していましたが、今回は葬式はありませんでした

これ、原作通りなのかどうか気になったからです

以上 劇団☆新感線の「メタルマクベス Disc1」の感想でした

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