[劇評]劇団桟敷童子「獣唄」@すみだパークスタジオ(とうきょうスカイツリー)

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主役降板という事態にもかかわらず、舞台の出来はとても良い。話の先が見えないことによるドキドキ感を最後まで感じる事ができ、最近みた桟敷童子の舞台の中でも出色の出来。ただ、自分の中でのその「面白さ」を突き詰めた時、その理由の一つは主役交代によるものであったように思いまいした。

劇団 劇団桟敷童子
題名 獣唄
公演期間 2019/12/032019/12/15

サジキドウジ

演出 東憲司
出演者  原口健太郎:梁瀬繁蔵(ハナト/三姉妹の父親)
 板垣桃子:梁瀬トキワ(長女)
 増田薫:梁瀬ミヨノ(次女)
 大手忍:梁瀬シノジ(三女)
 鈴木めぐみ:カネトキ(キノコ採りの名人)
 坂口候一:蔵野春治(山の地主)
 山本あさみ:蔵野絹代(春治の母)
 瀬戸順慶:八幡長次(春治の親戚)
 松本亮:水上三吉(村の若者)
 升田茂:ネコメ(村の若者)
 柴田林太郎:蔵野玉吉(春治の叔父)
 佐藤誓:楢崎伸輔(東亜満開堂・社長)
 もりちえ:楢崎夢代(伸輔の妻)
 羽田野沙也香:楢崎虹子(伸輔と夢代の一人娘)
 稲葉能敬:加藤信吾(東亜満開堂の社員)
 三村晃弘:山浦岩男(東亜満開堂の社員)
 川原洋子:末永やゑ(東亜満開堂の社員)
梁瀬繁蔵役の村井國夫さん降板により、原口健太郎さんが代役。原口健太郎さんの役だった山浦岩男役に三村晃弘さんとなった。
劇場
すみだパークスタジオ(とうきょうスカイツリー)
観劇日 2019/12/15(マチネ)

目次

祝・紀伊國屋演劇賞・団体賞/個人賞受賞!!

楽日を見た後、書かなければと思いつつ、仕事と立て続けの忘年会に忙殺されて劇評記事を書くのが遅れている間に驚きのニュースが入ってきました

今年20周年の劇団が団体賞、主役の村井國夫さんが個人賞を受賞しました。
最近観劇量がめっきり減っていて、こういう演劇賞の類の記事みても知らない/見てない劇団や役者さんが受賞することが多い中、自分が昔から割と足繁く通っていた劇団が受賞したのは 自分のことのように嬉しいニュースでした

しかし! まさかの主役の村井國夫さんは、病気降板。3日の公演休止期間を経て上記の配役に変更して再開という展開になりました

というわけで、今回は、楽日チケットを確保していたため、上記配役欄の記載の布陣にて観劇しました

ここからはネタバレします

主役交代も、新配役の納得感高い

主役は、村井國夫さんに代わりおなじみの原口健太郎さん、その原口健太郎さんがやっていた役を三村晃弘さんがやったという配役でした
演出やセリフなどをどのくらい直したのかわかりませんでしたが、見ていて違和感を感じることはまったくなく、原口さんも三村さんも、各々に宛書きされたかのごとく役に馴染んでいました

特に原口さんは、頑固者の親父役がよくハマっていて、逆に配役変更前の山浦という山岳会に所属している花の商社の社員という役をやっていたイメージを持つことはできませんでした
娘三人に嫌われることをよしとしながらも、やがてひょんなことから再び接点をもつことで、親子のキヅナを繋ぎ止めるあたりは、代役とは思えない真に迫る演技でした。
相変わらず桟敷の舞台は、装置が複雑怪奇に組み合わさっているのですが、その中を縦横無尽に動き回る演技も含め まさに熱演。引き込まれる演技でした

また、三村さんはこれまで見た舞台にも出演されていた方でしたが、あまり印象に残る役ではありませんでした。

今回は印象に残る役!

存在感もありますし、若き理想主義者という感じでぴったりという印象でした

板垣桃子さんは今回は「剛」バージョン!

板垣桃子さんは、この劇団を見る時今度はどんな役をやるんだろうと楽しみになるくらい変幻自在な女優さんです
とても、弱々しいドメスティック・バイオレンスに悩む主婦をやったと思えば、最初から狂気をはらむ荒くれ者ののような巫女を演じたり。
今回は、そういった意味では後者に近い「剛」バージョンの板垣桃子さんでした
しかも、一匹狼ではなく姉妹を守る長女としての責任感から、自分の限界を感じ、成長するという役で基本的には今回の舞台は彼女を中心に回っているように見えました

最後まで展開が読めない…考えてみれば実は…

こういうと怒られそうですが、 桟敷童子の物語は先が読みやすい傾向 があって、途中辺りでだいたい「 あぁ、終わり方はこんな感じなんだろうな」とか「 あ、この人は死んじゃうのかな」とか想像が付きやすい傾向があります

だからといって、面白さが減じるわけではない(それをどう見せてくれるのかという楽しみがあるので)のですが、今回に限ってはその辺りの予測が全然つかず、途中で何度も身を乗り出して舞台を見直すことが多くありました

特に、ラストシーンの直前に板垣さんと大手さんが演じる姉妹が死んでしまうというのはまったく予想がついておらず、かなり衝撃を受けました(次女役の増田さんが死ぬのは、割と早いタイミングで勘づいていた)

今回の物語の造形が異なっているのかなぁと劇場を後にしたのですが、その後数日この件について考えていてふとあることに気づきました。
父親役が(元々の)村井さんだったら、ラストは予想がついたかもしれない

今回は、上記の事情で父親役を原口健太郎さんがやりました。
それは、前述したようにとてもはまり役だったのですが、一方で存在感は(見慣れているせいもありますが)、板垣さんを始めとする他の役者さんとそれほど差があるわけではありません

そのため、原口健太郎さん演じる主役を中心にみるのではなく、家族の物語としてこの舞台を見ていました。
しかし、終わってみれば子供時代、妻を失った時の2度「獣唄」と呼ばれる幻の蘭を見たのは、原口健太郎さん演じる梁瀬繁蔵一人であり、彼自身が変わっていきながら、最後に再度「獣唄」を見るという物語であるのは自明です

そして、主役だけに注目していればその展開は予想がついた気がします。

もしも(見ていないのでわかりませんが)、村井さんがその役をやっていれば、おそらくその存在感は他の役者さんを圧倒していて、おのずと村井さんを中心に物語の構造を読み取っていたように思います

結果として、降板/代役の今回の措置によって僕にとっては「先が読みにくい(予想を裏切られる)」展開になったのだと合点しました

ラストシーンは、まさかの演出。あの舞台を思い出した

こちらは、主役云々関係なくですが、今回はラストシーンの舞台の転換がどうなるのかの想像が最後までつきませんでした
題名や、物語のキーワードからなんとなく「こうくるんだろうなぁ」と思い始める(見慣れているからだからだとおもいますが)部分が今回ありませんでした。

蘭の花がテーマだし、最後は花で終わるのかなぁと思っていましたが、舞台上で語られる花の描写はとても普通に舞台崩しをした向こうに咲いてればわかるというような具体的な描写ではありません
うーーーん どうなるんだろう と思っていたら、まさかの大地震のように舞台が揺れ動く演出

おおぉそうきたか!と感動しました
と同時に、この劇団に初めて出会った以下の作品を思い出しました


当時は、すみだパークスタジオとは比べようもないほどの小さな西新宿のそばにある地下劇場でこの舞台を見たときも、 壊すの?というぐらいの勢いで舞台を揺らせたのに度肝をぬかれました
ちょっと懐かしいものを感じました

ファンタジーのような、史実のような巧みな物語

今回の物語の舞台は、ちょうど日本が日中戦争から第二次世界大戦に突入していく時代背景における九州のどこかの山村です
そのため、史実にあるような戦況の悪化や、徴兵(赤紙)範囲の拡大、満州など外地における日本の存在感の衰退と危険度の増加などの推移が語られます
佐藤誓さん演じるのは、満州に拠点を置く民間企業の社長という役回りです。
彼自身が舞台を出入りするたびにセリフや表情がどんどん暗くなっていくことで、そういった時代背景を見事に体現していました

一方で、花がこれほど高値になるというのはどうにもファンタジー的な設定だなぁと思いながら見ていました
山の人が、一攫千金を狙うなら松茸のほうが現実的な気がしたのですが、花(蘭)じゃさすがにそんな話にはならないのではないかと思ったからです。

ただ、ネットで検索するとたしかに戦争末期「花禁止令」という法令が出たのも事実で、佐藤誓さんが演じる花の会社の社長が最後にあがいたような花の種を守るために戦った人がいたのも事実の様子

どこまでが、史実に基づいていてどこからが想像の産物なのかが分からないこの物語の造形こそが、桟敷童子の強みなんだなと改めて思いました

以上 劇団桟敷童子「獣唄」の劇評記事でした

ちなみに、主役(主要キャスト降板)という舞台は過去に2度見ています。
いずれも、降板キャストの代役は外部から招聘していましたが、そういえば座組の中でやりくりというパターンは今回が初めてだった気がします


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