[書評]清水亮「よくわかる人工知能 最先端の人だけが知っているディープラーニングのひみつ」

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面白いという話を聞いていたのと、著者の清水亮さんの著作は他にも読んだことがあり、購入しました。結論として、「今の」人工知能最前線の様子がわかる素晴らしい本でした。ただし、賞味期限は短めの本なので、読むならお早めに。

目次

買って、一瞬後悔も、引き込まれました

買ってすぐ後悔してしまいました。いわゆるインタビュー集で、内容のほとんどが対談形式だったためです。
対談形式の本は、僕は通常買いません。いわゆる地の文がないせいか、はたまた対談した内容(話し言葉)を書き起こすためか分かりませんが、文字数に対して内容が薄い事が多いためです。(ま、あくまで僕自身の偏見ですが。)
とは言え、この本はそういった過去の経験とは大きく異なり非常に読み応えがあり、引き込まれる内容でした

様々な視点から語る幅広いインタビュー陣

目次
第1章 人工知能と深層学習の今
  東京大学大学院工学系研究科 松尾豊氏との対談
第2章  深層学習はビジネスをどう変えるか?
 元トヨタ・リサーチ・インスティテュート 岡島博司氏との対談
 NVIDIA社ディープラーニングソリューションアーキテクト 村上真奈氏との対談
第3章 最新のAIはどこまでできるのか〜インテリジェント…
 ヤフージャパン研究所所長 田島 玲氏との対談
第4章 人工知能は意識を持つのか?
 慶應義塾大学大学院 システム・デザイン… 前野隆司氏との対談
 慶應義塾大学理工学部システム・デザイン…満倉靖恵氏との対談
第5章 ディープラーニングの先にあるもの
 ドワンゴ 人工知能研究所所長 山川宏氏との対談
PEZY Computing創業者・代表取締役社長 齊藤元章氏との対談

 上記のように様々な人工知能に関わる識者との対談はいずれも劣らず興味深いものでしたが、中でも気になったネタの部分にフォーカスして以下感想を書きたいと思います。

産業革命どころではない、農業革命に匹敵する革命が近づいている?

そして松尾先生はこうもおっしゃいます。 「前著では深層学習はインターネットの発明に匹敵する発明が起きると予想していたが、今となっては、これは農耕の発明と同じくらいのインパクトがあるのではないかと思っている」  インターネットの発明に匹敵するというだけでも筆者にとっては大変にインパクトのある言葉でしたが、それさえも通り越して、いまから1万5000年ほど前に起きた農耕の発明に匹敵する変化が、深層学習によって訪れる

産業革命と比較した文章には、今までよく触れてきましたが、農耕と同じくらいというとかなり恐ろしい変化です。先日、農耕の発達により人類は蓄財が可能になり、貧富が生まれ、戦争が生まれたといったテレビ番組をみたこともあり、人間の生活そのものの成り立ちを根本から買えてしまうような革命がくるということなのでしょうか。戦慄した一節でした。

TenserFlowだけじゃないディープラーニングフレームワーク

何かと、ディープラーニングというと、Google謹製のTenserFlowが話題になるし、それがデファクトかと思っていましたが、日本製のものもなかなか良さそうなものがあるという話にちょっとほっこりしました。今年は、時間ができたらTenserFlowをいじってみようかと思ってましたが、こっちの方がいいかな。

私(NVIDIA 村上真奈氏)は日本の国産フレームワークであるPFNのChainerに注目しています。Chainerは柔軟で複雑な処理も書きやすいです。(中略) 清水:日本の国産Chainerはメモリーを節約して最大限の効果を出すっていうのがいかにも日本的な発想ですよね。小さくて高回転型のエンジン。世間は舶来物のTensorFlowをありがたがるけれど、Chainerの良さももっとわかってほしいなと思います。  TensorFlowについては、少し過激な言い方ですが、実はグーグルが放ったNVIDIAに対する刺客なんじゃないかって思うことがありますよ。

どうせ、一から勉強するんだし(道は長そうですが…)

シンギュラリティは、想定より15年も早く来る?

PEZYの齊藤氏の話は衝撃的でした。

齊藤:1エクサのスパコンができると、〝前特異点〟、〝社会的特異点〟みたいなものを2025年ごろまでには創出できるだろうと想定してます。1エクサのスパコンと汎用人工知能のハードウェアのプロトタイプ的なものを一緒に動かして、しかもそこに人工知能エンジンを絡めると、世界初のAGIへの方向性が見えてくるはずです。これは非ノイマン型ですから、ソフトウェアレスで、マスターアルゴリズム※的なものがハードウェアにも最初から実装されているような自己進化機能を持ったようなもので、これを2030年までには作りたい。特異点創出に向けていきたい、と思うわけです。(中略)
清水:しかし、予定よりちょっと早いですよね、2030年だと。レイ・カーツワイル※(思想家)の言う2045年より15年早い。
齊藤:早いんですが、これもちょっとまだ遅すぎるなぁと思っていて、もしかしたら2025年ぐらいまで前倒しできるのではないか、などと思ってたりもします。
清水:なんと

  レイカーツワイルの本を読んだときに特異点(シンギュラリティ)は、2045年に来ると言うのを読み、それでも早いなと思ったのに、それより15年も早い2030年にはくるという話は衝撃的でした。(いや、更に早めて2025年…8年後かよって感じ)

 ただ、最近の人工知能界隈の賑わう様は確かにレイカーツワイルが上記の本を上梓したときとは比べものにならず、資本と人の投資が加速している現状を考えると、予測が前倒しになるのはあり得ることのような気がします

清水亮さんの博学さと視点の鋭さ

学術的な観点からの話からビジネス、そしてハードウェアからのアプローチ、ソフトウェアからのアプローチを網羅的にインタビューし、様々な興味深い話を引き出すことができているのは、編者の清水亮氏の博学と編集のうまさにあると感じました。

清水氏は、あとがきで、以下のように書いています。

現代の考古学では、イスラエルで2万3千年ほど前の種もみが発見されていて、これが農業の始まりを示していると言われています。これが中国文明まで広がるのは、さらに1万年後です。つまり農耕革命は100世紀という非常に長い時間を通じて人類全体に広がっていったと考えられます。  農耕革命が人類にもたらした恩恵は絶大です。狩猟民族だった人類が文字や文化を獲得し、政治や経済を作ったのも、農耕革命があればこそです。(中略)農耕革命に対して、情報革命の起源はいつだったかと考えると、紀元前300年のアレクサンドリア図書館の発生をスタートと考えることができるでしょう。(中略)つまり我々は既に2300年ものあいだ、情報革命、知能の革命という大きな流れの中にいることになります。

清水氏は、新たな革命によって人間に求められるものが何かまで考察を進めています。(読んで下さい!)

現段階で、人工知能について素人が読める最高の書籍の一つでは?

人工知能について、超初心者向けの入門書であったり、現実性が疑わしい夢のような未来か、悲惨なディストピアを語るような本しか見当たらないように思います。そうでなければ、ある程度理論やプログラミングに精通した人向けの専門書か。

この本はその中間か、中間より少し初心者向けの方に軸がよった立場で書かれています。

今の僕にちょうどいい本でした

ただ、びっくりするくらい、この本の賞味期限は短いかもしれないと感じました

人工知能界隈は、恐ろしいスピードで環境変化が起きており、投下される資本規模が年々拡大しているように感じます
できること、出来ないことが明確になるスピードも、実用化するスピードも上がり始めています。かつて、インターネットの世界は、ドックイヤーと言われ、やがてさらにスピードは上がってマウスイヤーと言われてきました。

人工知能界隈は、さらにスピードが上がっているように思います。ハードウエアの成長スピード、ムーアの法則さえ、超えそうな勢いです
これほどのスピードを現すことばがそのうち現れるかもしれません。モスキートイヤーとか。

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