[劇評]劇団桟敷童子「海の木馬」@すみだパークシアター倉(とうきょうスカイツリー)

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戦後の実話を元にした舞台作品。客演/主演の小野武彦さんが、全編少年兵を演じるという物語だったが以外にも小野さんの少年兵は非常にハマっており、脚本の世界にどっぷりハマることができた。
舞台装置はいつもに比べるとほとんど素舞台に近い装置での演出も目新しく、新鮮な印象を受けました


劇団 劇団桟敷童子
題名 海の木馬
公演期間 2023/05/30~2023/06/11

サジキドウジ

演出 東憲司
出演者 小野武彦:青柳周平(唯一生き残った震洋隊特攻隊委員)
吉田知生:松浦耕作(震洋隊特攻隊委員)
前澤亮:林繁守(震洋隊特攻隊委員)
藤澤壮嗣:橘正太郎(震洋隊特攻隊委員)
原口健太郎:武藤莞爾(部隊長)
原田大輔:宮野九郎(艦隊長)
稲葉能敬:下山篤史(整備隊員)
三村晃弘:野村敬一(整備隊員)
柴田林太郎:村上満吉(旅館「むらかみ」の主人)
斎藤とも子:村上寿(満吉の妻)
石村みか:村上すみゑ(長男の嫁・勤労奉仕隊隊長)
増田薫:村上光子(長女)
大手忍:村上珠子(次女)
もりちえ:熊代(勤労奉仕隊・焼酎おばちゃん)
川原洋子:タネ(勤労奉仕隊)
山本あさみ:ヨシ(勤労奉仕隊)
井上莉沙:カナコ(勤労奉仕隊)
鈴木めぐみ:シイ(勤労奉仕隊・海女漁師)
板垣桃子:中村フク(勤労奉仕隊副隊長)

劇場 すみだパークシアター倉(とうきょうスカイツリー)
観劇日 2023/6/10(マチネ)

目次

戦後高知で発生した実話をもとにした話

桟敷童子は、フィクションの物語が多く、戦中やそれ以前の時代背景で架空のでも大抵は九州近辺の片田舎を舞台にした話が多いですが、今回は高知県を舞台にした事実を元にしたストーリー

特攻兵器「震洋」を巡る終戦直後の1945/8/16に起きた爆発事件が今回のテーマです


こちらの記事によると、111名の被害者が出た高知の事件を始め、この兵器あちこちで爆発事故を多発している兵器です

桟敷童子は、似たような手法で福岡で戦後に起きたトンネル爆発事故を舞台化しています


こちらの舞台は、劇団員の俳優さんたちの活躍が印象に残りました

ここからはネタバレします

小野武彦さんら客演陣の活躍

今回は、客演の方々の演技がとても印象に残りました。特に、全編にわたり17歳の少年兵を演じた主演の小野武彦さん(80歳!?)の演技は素晴らしかったです。
変な若作りのメイクなどせず、現実そのままの小野さんが周りの少年兵に混じって会話してもほぼ違和感がなくなってきました(最初はあった🤣)

そして、大事故がおきて、生き残ってしまったあとの苦悩。地元民が必死に彼を生かそうとする中で感じる苦悩。ひしひしとその切なさが伝わってきて、心を激しく揺さぶられました

上記飛ぶ太陽でも客演をされていた斎藤とも子さんは、思想犯の疑いを受けた息子を信じつつも、地域に無理やり溶け込もうとする悲壮感のある母を、石村みかさんは、線が細いのに徐々に戦争に染まっていく嫁を演じ
軍人だけではない民間人の戦う姿を垣間見せてくれました

原口健太郎さんらしい役に安堵

20年以上前に初めてこの劇団をみたときから出演している原口さん。最近見た舞台に出演されていなかっただけなのに、随分久しぶりにみたような気がしてしまいました
今回の役はとても原口さんらしい役で、あっていたなぁと感じました。こういう権威主義でそれでいて弱いところがたくさんある役をやっていると原口さんがとてもいきいきとしているように感じます

これまた客演の原田大輔さんとの掛け合いも絶妙で、原田さんの冷静さと原口さんの激情の対比がわかりやすかったです

まさかの素舞台

今回は、装置にも少し驚きました。普段の割りと具象舞台でガッチリ作り込まれた装置が多かったのですが、今回は海をイメージさせる幻想的な装飾がある素舞台に近い装置でした
今回は、この素の舞台の奥行きを利用した演出がとても効果的でした。
特攻を義務付けられた青年(少年)たちと、その人々を取り巻く村人たちが、様々な場面で交流する様は、素に近い舞台であるほうが場面転換がスムーズだったのだと思います

最後に、砂の柱が何本も立つ演出は、高知の海岸の砂浜を思い描かせるものでした。
僕は、1996年と2002年に見た蜷川幸雄さんの「夏の夜の夢」を思い出しました。石庭風の舞台装置で、森を砂の柱で表現する演出でとても幻想的でした

戦争が終わったのに戦うことの愚かさ?

戦争が終わったとわれても、簡単に切り替えができないというのは理解できます。
この悲劇は、戦争が終わったにも関わらず敵が攻めてきていると勘違いをして、兵器を運用しようとしたときに起きた悲劇でした
多くの爆発事故がこの震洋という兵器にはつきまとっていますが、この高知の事故が一際悲劇的だったのは、戦後すぐに起きたということだと思います

ただ、あとから歴史を振り返って、悲劇や愚かさを語るのは簡単ですが、当時の人の立場に立てば、止む得なかったのかなとも思います
実際、舞台を見ながら対比的に思い出していたのは、実際に戦争が終わったあとに攻めてきた敵軍と戦った日本兵の話でした

私は、TEAM-NACSの舞台をテレビ放映されたことで、この事件を知りましたが、戦争が終わったにも関わらず攻めてくる敵兵もいるし、それと戦う必要がある兵士もいた
その事実を考え合わせると、舞台上の日本軍たちが愚かというふうにみることもできないなと感じていました

以上 劇団桟敷童子の「海の木馬」の感想記事でした。

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