劇団チョコレートケーキの再演作品『ガマ』。沖縄戦の激戦地から数キロ北に位置する“ガマ(鍾乳洞)”を舞台に、軍人と沖縄県民が極限状態の中で生と死を問う緊迫の人間ドラマ。

劇団 | 劇団チョコレートケーキ | ||||
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題名 | ガマ | ||||
公演期間 | 2025/5/31~2025/6/08 | ||||
作 | 古川健 | 演出 | 日澤雄介 | ||
出演者 |
浅井伸治: 東 秀達(ひがし ひでたつ) 岡本篤: 将校役(劇団チョコレートケーキ) 西尾友樹: 岸本昭吉(地元出身者) 青木柳葉魚: 井上市太(地元出身者) 清水緑: 安里文(女学生) 大和田獏: 知念孝元(地元老人) |
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劇場 |
吉祥寺シアター(吉祥寺シアター)
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観劇日 | 2025/6/7(ソワレ) |
目次
はじめに──3年越しの観劇
劇団チョコレートケーキの舞台『ガマ』を観劇しました。
本作は3年前、沖縄を題材とした連続上演企画の一環として書き下ろされた作品で、今回はわずか3年で再演となりました。
私は初演時に観ることが叶わず、今回は少し無理をしてでも観たいと思い、ようやく観劇することができました。
「ガマ」とは──舞台の意味と設定
「ガマ」とは、沖縄の方言で「鍾乳洞」を意味します。
本作は、沖縄本島南部の戦場からやや離れた鍾乳洞内を舞台に、第二次世界大戦末期の出来事が描かれます。
アメリカ軍の沖縄上陸作戦が進行する中、民間人をも巻き込んだ激しい戦闘が行われていた現実。教科書で知っていたつもりでも、それが具体的にどういうものだったのか、どれほどの苦悩と犠牲があったのかを、初めて実感として受け取ることができた気がします。
広島出身の自分にとっての“戦争”
私は広島で生まれ育ちました。戦争と聞くと、どうしても広島や長崎の原爆が真っ先に浮かびます。
しかし、沖縄の地では、若い中学生や女子高生までもが戦力として扱われ、「徹底抗戦」の名のもとに戦いに巻き込まれていった現実があります。
そのことを、私はこれまで深く知ろうとしていなかったのではないか。
本作を通して、その無関心さに気づかされ、胸が痛みました。
作品をより深く観るための準備
今回の公演では、開演前に作家・古川健さんと演出家・日澤雄介さんによるプレトークがありました。沖縄の歴史的背景や、日本との関係、差別の歴史に至るまで、丁寧に語られます。
さらに、B4サイズの紙の両面にびっしりと書かれた沖縄の歴史や言葉に関する資料も配布され、観客がより深く物語に入り込める工夫がされていました。こうした背景説明があったからこそ、舞台で語られる出来事の重みが、一層リアルに迫ってきたように思います。
緊張感と没入感──鍾乳洞の闇に響く声
舞台は終始、鍾乳洞の中という設定。照明は暗く、観客も登場人物と同じ空気の中にいるかのような臨場感に包まれます。6人の俳優が出ずっぱりで演じ続ける、非常に密度の高い構成です。
登場人物は、3人が本土出身、3人が沖縄出身という設定。その間に明確な対立構造を作るのではなく、互いを理解しようとする姿勢が描かれており、そこに一筋の希望や救いを感じることができました。
印象に残った俳優たち
将校役・岡本篤さん
厳格さと葛藤を併せ持つ軍人役を、冷静に、しかし人間らしく演じておられました。命令と倫理の狭間で揺れる姿に、深く引き込まれます。
中学教師役・西尾友樹さん
地元中学校の教師であり、少年兵の引率者という立場。教育者としての理想と、戦争という現実の中での苦悩がひしひしと伝わる演技でした。
老人役・大和田獏さん
かつてテレビでよく拝見していた俳優さんでしたが、今回はまるで別人のように、沖縄の年配男性として舞台に溶け込んでおられました。その自然さと存在感には驚かされました。
女学生役・清水緑さん
一途な忠誠心を持つ少女を真っすぐに演じておられました。現代の私たちの目には「洗脳」とも映るような日本軍への献身。しかし、それが当時の若者のリアルな姿であったのだと実感し、胸が詰まりました。
時を越えて問いかける舞台
舞台の最後には、「白旗を掲げる少女」のシーンが描かれます。これは実在する有名な写真をモチーフにした場面だと、終演後に知りました。随所に史実や記録へのオマージュが織り込まれており、単なるフィクションを超えた重みがありました。
おわりに──無関心から目を覚ますきっかけに
『ガマ』という作品は、沖縄戦の事実を「知る」だけでなく、「体感する」ことのできる貴重な舞台でした。そして同時に、自分自身の無関心や偏りに気づき、改めて学び直したいという気持ちを強く持たせてくれました。
次の再演があるなら、より多くの人に観てほしい。沖縄の“ガマ”が今も語りかけてくる声に、もっと耳を澄ませなければならないと思います。
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