[劇評] 劇団チョコレートケーキ「一九一一年」@シアタートラム(三軒茶屋)

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舞台は110年も前の日本。戦争の前後、政治体制の違いはあっても、近代の日本であり、どこか今の日本に通じる世界のはず。そんな世界で起きたおそろしい冤罪事件の渦中にあって、冤罪事件で断ざれるものではなく、断じる立場から語られる全容。背筋が寒くなるその様子は、個人の強烈な悪意によるものでないだけに、現在に通じそうで怖い

劇団 劇団チョコレートケーキ
題名 一九一一年
公演期間 2021/07/102021/07/18

古川健

演出 日澤雄介
出演者 大逆事件予審判事
西尾友樹:田原巧(東京地裁判事)
佐瀬弘幸:潮恒太郎(東京地裁判事)

 大審院
青木柳葉魚:横田国臣(大審院長)
吉田テツタ:鶴丈一郎(大審院判事・大逆事件本審裁判長)
岡本篤:末弘厳石(大審院判事・大逆事件本審判事)

 検察
島田雅之:武富済(東京地裁検事局)
近藤フク:小原直(東京地裁検事局)
林竜三:松室致(検事総長)
浅井伸治:平沼騏一郎(司法省刑事局長兼大審院次席検事)
 弁護士
菊池豪:平出修(与謝野鉄幹に弁護を依頼された青年弁護士)

谷仲恵輔:山蘇有朋(元老)

堀奈津美:管野須賀子(被告・無政府主義者)、婦人(新日本
  婦人同盟の女性解放運動家)

 アンサンブルキャスト 加藤広祐栗原孝順浦田大地

劇場
シアタートラム(三軒茶屋)
観劇日 2021年7月17日(土曜日)(マチネ)

目次

久しぶりのチョコレートケーキは、あの「治天ノ君」より前の作品の再演

治天ノ君で話題をさらった(個人的にはそれで認識した)劇団チョコレートケーキですが、なかなか予定があわず久方ぶりの観劇になりました。
1911年の事件を元にしたこの作品は、2011年(事件から100年後)に初演した作品です。治天の君と同じ時代を扱っていますが、人間味のある天皇陛下を(主役の大正天皇だけでなく、明治、昭和天皇も)舞台上で演じた役者たちが、この舞台では、非常に象徴的な明治天皇に仕える人々を演じ分けています
劇団員だけでなく、多くの出演者は治天の君とかぶっており、このあたりが劇団チョコレートケーキのコアメンバーなのかもしれません。

大逆事件は知りませんでした

もちろん、教科書レベルで、幸徳秋水の天皇暗殺未遂事件としてのおぼろげな知識はあったのですが、冤罪事件としての話であったり、事件の概要は、この舞台とその舞台前に配られていたリーフレットによってでした

これほどの冤罪事件があったとは、思いませんでした

治安維持法や特高警察といった戦前の悪法は、授業や歴史ドラマで理解しているつもりでした

一方で、私が法律を学ぶ学生だった1990年でもまだカナ漢字混じりの刑法が残っていたことから、根本的な部分はまともな法律だったんだと思っていました。
しかし、戦後すぐに削除された天皇に対しての罪は、それにもましてやばかった…
根本的にやばかったというよりも、運用の問題が多いようですが、そもそも論、計画しただけで罪になるという条項は、最近のテロ等準備罪の議論でも、かなり重要なポイントだったと思います

その場しのぎの男たちでみた日本の法律の矜持が、崩れ去った

この物語の中でもセリフの中で語られる大津事件については、「その場しのぎの男たち」という東京ボードヴィルの舞台で、その事件の概要は知っています(演劇でしか、歴史を学ばない私🤣)


あの舞台では、政府の思惑が裏目裏目に出てという話ですが、逆に政府の思惑にとらわれず司法の独立を守ったという意味で評価された。

政府は、ロシア皇太子に対しての事件を、「皇室」への危害を加えようとした事件として、大逆罪を適用しようとしたそうです。それをはねつけ、民間人に対して殺人未遂とした司法の判断は素晴らしかったと思います。

その同じ大逆罪を適用したこの事件は、司法が率先してその矜持を崩したのが怖い

12人の冤罪による殺人が怖いけど、このような形で司法の独立が破られることの怖さを見ました。

空気を読むという日本人の特性が悪い方に遺憾なくはっきされた現象だよな、これ

怖いなと思う原因は、当時の司法とか政府の怖さというよりも、「仕事をした」という人々のしごとの結果が恐ろしい結末につながったということです
これって今の日本にも通じるようにおもいます。
それはもちろん、政治権力の場だけじゃなく、日常の仕事の場や家庭でも多かれ好かなかれ、こんな事態が進行しているような気がします

堀奈津美さんの凛とした演技が芝居をひっぱる

芝居そのものは、観客としての我々が感じる違和感を体現してくれるのは、堀さん演じる須賀子です

どうしても、治天の君との比較になってしまいますが、大正天皇の皇后を演じた松本紀保さんは、割と親しみやすい観客の立場にたってくれたセリフまわしだったのですが、堀さん演じる須賀子はどちらかといえば、超然とした態度で、「仕事をしている」人々の心をかき乱すことで、観客の思いを舞台上に反映してくれているように感じました

浅井伸治さんの悪役ぶりもなかなかで、このお二人がとても印象にのこる舞台でした

事件の背景が気になる

アナーキズムって何?

僕の世代だとアナーキーときくとピストルズの名曲「アナーキーインUK」くらいしか知りません

無政府主義者って聞いても、なんか非現実な主義主張と思えるのですが、当時は庶民にとって希望となる思想だったのでしょうか?。
この舞台を見ると貧しい国民が生きるために夢見た幻想的なものだったんだな。それに、かけるしかない庶民の悲しさが、紅一点の堀さんの姿に重なりました

それでも、政府が恐れるようなものだったのかな

しかし、この時期に政府がこれほど恐れなければならなかった理由はやはりピンときませんでした
歴史を後からみたら、アナーキズムが政権をとった例はないし、ここまで圧力をかけないといけない理由はなんだったのだろうかと思いながら見てました

共産主義と同一視されていたのかもしれませんね

色々考えさせられる舞台

重めの舞台でありながら、役者の緊張感も相まってまったくダレることもなく2時間超の舞台を見終わることができました。
作劇力の高い、作演出のコンビに、それを具現化する役者陣の高い演技力で本当に満足できる舞台でした。だからこそ、芝居の世界に没入し上記のようないろいろなことを考え込まされてしまいました

劇団チョコレートケーキ及び関連作の過去観劇歴

劇団チョコレートケーキ


古川健作、日澤雄介演出作品

古川健さん作の作品

日澤雄介さん演出作品

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