[書評]内田和成「右脳思考を鍛える―「観・感・勘」を実践! 究極のアイデアのつくり方」

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学生時代からアイデアの不足に悩み続け、アイデア発想法の類の本は割とよく読みます。この本は、ビジネスに活用すべきアイデアの発想を右脳思考/スパークという言葉で表し、オフィスの机上/コンピュータの画面上から離れた場所での発想源のもつことの大事さと、知識・記憶の蓄積を推奨しないという点で特異。豊富な事例があり、その事例を読むだけでもまさに「スパーク」した気になれる良書です
右脳思考を鍛える―「観・感・勘」を実践! 究極のアイデアのつくり方

目次

スパークを呼び込む為の右脳思考と公私混同

著者である内田氏は、経営コンサルタントとして数々のコンサルティング案件をこなす現役コンサルタント。
彼の定義の「スパーク」とは以下のようなことを言うらしい。

スパークとは、火花が飛び散るように、いいアイデア、発想が生まれる、ひらめくことをいう

僕自身、色々な場面で「何か」と「何か」が紐付いて突然アイデアが溢れ出す瞬間があります( 本当にたまにですが
そういった意味で、著者がいう「スパーク」という表現は、自分の中でとてもしっくりくる表現です

結論から言うと、彼の「スパーク」の源泉は、「脳にレ点をつけること」、「右脳思考」、「公私混同」です。

脳に「レ点」をつける?

実は、「レ点」という言葉が最初はついていけませんでした
確か漢文の用語で、返り字のこと。脳に「レ点」というのは、何かを返り字の如く逆転させるとかそういう意味なの?とか思っていました
どうやら、気になる事柄に印を付けるというような意味で著者は使っているらしい
著者は以下のような表現でそれを表しています

問題意識をもっていれば、なにかと頭に引っかかることが出てくるはずである。その際、頭にインデックス(印)をつける、すなわちレ点を打つ方法として..以下略

僕自身は、ブックマークや本でいえば折り目をつける的な感じで理解しました

確かに、日常生活の中でふと気になってしまうこと、著者の言うところの「問題意識を持っている領域」に関係しそうなこと。その瞬間は関係しなくても後々関係しそうなことで気になる日常の風景はなんとなく記憶に残っています

それを著者は「レ点をつける」と表現しているようです

記憶しない、集めない右脳思考

ここは、僕自身納得したようなしないような話になっています

僕自身は、あまり自覚はないが記憶力はいいほうらしい。ただし、記憶したくて記憶しようとすると覚えられないことが多い
記憶が定着するのは、その場で考えを巡らせ、何か発言しようとか、何かをその場で得ようとか(あわよくば、その場でスパークを生み出せないかとか)そういう姿勢で何かを読んだり、情報を集めたり、会議に参加したりした場合だ。

極端な話、黙って議事録を書く為に参加していた会議よりも、主な発言者としてそれこそメモを取る暇もないくらい喋り倒し、議論をしていた会議の方が、後からきちんと議事録がかけるレベルの記憶が残っています
そういった意味で、記憶しよう、集めようという意識で情報に接しても記憶にも残らなければ、発想の源にもならないという意見には賛同するものの、記憶や情報収集そのものを否定するところは少々腑に落ちない部分もありました

多様なエピソードが、心に刺さり(多分)僕の中でスパークした

著者自身、発想を得るために頭の中にいつも様々な引き出しが用意されており気になることはそこに自ずとストックされているとのこと

確かに、その例として挙げられる事例はいずれもとても印象に残るもので、僕もどこかで使いまわしたいと思うような話が多い
著者とはまた、別の感想をもった部分も含め著者のあげた事例の中で印象に残ったものを上げていきたい

キャプテンの唇

人材育成について、著者が経営者と話す際に引用するエピソードとのこと

ずいぶん前になるがミニコンピュータ会社のデータゼネラルの創業者の伝記を読んだことがある…中略…
船の船長(キャプテン)が若い航海士をキャプテンに育て上げるときの話だ…中略…
実際に嵐の中で舵取りを任せると経験不足の若い航海士は危なくてとても見ていられない操船を行なってしまう…中略…
本当にその航海士を育てたいと思ったら、口を出す代わりに 自分の唇を血がにじむくらいかみしめて我慢すべき

この部分は、かなり 僕の心に刺さりました(発想法云々というよりも、育生法の逸話として)
この話の肝は、同じ船に乗り、操船を誤れば多大な犠牲が出る(それこそ自分の命さえかかっている)ときでも、唇を噛んで育生の為に手を出さないという部分です

正直、仕事をしていて見ちゃいられない…と思うことは多々あります。そして、この部分で失敗すると後でえらい目に遭うとわかる場面もあります

それでも、自分の命を投げ出すのに比べればどれほどの大事も、小事に思えます
グッと踏みとどまる勇気をもらったようなエピソードでした

顧客志向の自動車泥棒

本の中での順番は前後するが、このエピソードも印象に残った(出典は朝日新聞)
ある自動車泥棒の窃盗の手口にまつわる話だ

その窃盗団は最初、クルマを盗まないのである。 
なにをやるかというと、街中の駐車場に停めてあるクルマの中から人気のありそうなクルマのリストをつくる。そしてそのリストをもとに潜在顧客のところに行って、「この中のどのクルマが欲しいですか」と尋ねるのである。 
そして気に入ったクルマを聞いてから盗みにかかるのである

まさに「究極の顧客志向」(笑)  
自分自身、サプライチェーンのプロジェクトに関わった時に、Push型(製造して、販売する)ビジネスモデルとPull型(オーダーメイド)のビジネスモデルを比較したとき、Pull型が今後伸びるだろうという話をしていたことを思い出した
(多分、売上レベルではPush型が高いと思うが、利益レベルではPull型の方が強い)

面倒でリスクの大きい仕事(自動車を盗むという行為)を最小限で収めつつ、顧客要望に沿って、確実に売れる製品を顧客に提供できるビジネスは強い
これは、(著者も認めている通り非合法だが)かなり 頭のいい戦略だと思いました

ただ、このPull型の前提は、顧客の気が変わらないうちに要望の製品を届けることが肝になるはず。
そんな簡単に自動車盗めたんだろうか…という疑問は新たに湧いては来ます
このビジネスモデル(?)は、顧客の要望を予め聞いて盗んでくるという発想の逆転も去ることながら、(予めリスト化された自動車の中で)顧客要望に沿った自動車をタイムリーに盗んでくる腕も必要な気がします

もしかしたら、こういうやり方で顧客を奪われている他の自動車窃盗団も、同じことが真似できるようで真似できない(≒参入障壁が高い)為、参入できなかったのかも知れません(結局この窃盗団も捕まったわけだが)

そっと忍ばせた母の1万円

この話は、最近自分の中でトレンドであるセキュリティや品質とコスト面とのバランスの問題にジャストミートした
(著者もそういう文脈で使う例らしいが)

母親が、田舎から都会に出ている子供へ衣料品や食べ物を宅配便で送るときに、そっと1万円くらいの現金を忍ばせることがある。そうする母親が、宅配便では現金を送ってはいけないことを知らないのかというと、ちゃんと知っている。いわば確信犯的だ。だから、万が一荷物がなくなったときに、荷物そのものの損害賠償は請求できるが、現金に関しては請求できないということも知っている
…中略…
母親が利便性とリスクを天秤にかけて、それで利便性をとるという判断をしているからだ
…中略…
宅配便は相当正確な物流手段で、送ったものがなくなることは滅多にない。そのことを母親は知っている。それに、万が一、仮になくなったとしても、1万円ならばあきらめがつく。そのために、わざわざ別に銀行送金をして、500円から600円の手数料を払ったり、現金書留という面倒な手段をとったりしないのだ

私自身、品質やセキュリティの担保とコスト(お金だけでなく手数や時間)のバランスについていつも考えています
そういう時に、上記のようなエピソードがあれば、うまく使えば相手を説得させる材料になるかもしれないし、あるいは自分の中でソリューションを考える際の指針になるかもしれません

著者の脳の中の引き出しには、こんなエピソード(この本の中だけでもたくさんある)がたくさん蓄えらているようです。それは、蓄積しようとして蓄積されたものではないというのが著者の説くところです
確かにこんなエピソードが頭の中にあれば、自由な発想や顧客を含む様々な人との会話に役立つような気がします

公私混同のススメ

著者は、多くの人は日常生活でこそクリエイティブであると。それを日常からビジネスに持ち込むことの有用性を以下のように説いている

私が強く主張したいことは、そうした多彩にしてクリエイティブなあなた本来の姿、生き方、ノウハウをなぜ仕事にも活かさないのかということだ。普段のやり方、オフタイムの常識を仕事にそのまま持ち込もうではないかと強調したい。つまり、公私混同だ。それが差別化された斬新なアイデアを生むためには最も重要なことなのだ

 確かに、映画を見ているとき(僕は、「スターウォーズ」のヨーダの言葉から人材育成についての指針を学んだ)、クリーニング屋にワイシャツを出しに行ったとき(あれだけの数の多様な洗濯物を、次から次にくる客から受け取り、間違いなく元の持ち主に戻すオペレーションはいつか他の使いみちがあるのではないかと思っている)、ビジネスに使えるアイデアの元をもらっている

 別にビジネスのアイデアを取る為に映画館やクリーニング店に足を運んでいるわけではない
 それを全部まぜこぜにして仕事をするというスタイルには頷けるところが多い

以上 内田和成著「右脳思考を鍛える―「観・感・勘」を実践! 究極のアイデアのつくり方」の書評記事でした

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