[書評]山本弘「神は沈黙せず」

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お正月に久しぶりに、過去に読んだ本を再読しました。発売当初に超近未来を舞台にした作品でしたが、消して古びておらず僕にとってはかなり印象的な作品であることを再認識しました

目次

久しぶりに読み返したが、思想を変えてくれた一冊

思想というと大げさだが、その後の興味を持つ方向性を決める一つの指針になった。
この本を読む前と後で、興味の対象が変わったのは確かです
山本弘さんの作品を読み漁ったのはもちろん、この本に記載されている様々な事象に改めて興味をもちました。

その最たるものが遺伝的プログラミングという技術への興味でした

遺伝的プログラミングと私

この本のおかけで遺伝的プログラムに興味を持ちました。
趣味でプログラミングをすることは従来あったのですが、この小説を読むことで少しでも遺伝的プログラミングというものをかじることで、この小説の世界の実現を実感できるのではないかと思いました

趣味の粋ですが自分でネットや本を参考に遺伝的プログラムやアルゴリズムを試してみました。
テストをする上で、早い言語を利用したくて、nimというコンパイル言語に手をだしたのも、実はこの小説を読んだことが遠因でした

結果として、簡単ではないこと、それでも可能性があることはわかりました
とはいえ、僕の場合、四則演算を遺伝子にして足して10になるまで進化させるとかそういう実験をした程度だけど( それさえ、うまく行かなかった….

UFOと私

遺伝的プログラミングと同じくらい、この小説を読む中で僕を夢中にさせたのはUFOを中心とした超常現象の実例とこの小説のの大胆な仮説とのリンクに舌を巻きます

子供のころUFO大好きで、この本に出ているようなUFO体験や超自然体験談みたいものが大好物です。
とはいえ、それなりに現実を知った今の自分が、そういった超常現象を全て宇宙人のせいだとか言われてもちょっとピンとこない(そりゃ、子供の頃は夢見ていたが、現実的な大人になるとさすがにね…)

でも、じゃ、子供の頃に夢中で読んで信じてたものはすべて作り物?というところに素直に首肯できない自分もいて…

そういった僕にとって、この小説の中の仮説はまったく想像もしなかった方向からのアプローチで本当に衝撃を受けました

実際、この小説を読んで以降の僕は、多分、少しだけこの世界観を信じたくなってしまっています

未来予測は当たってる?

2003年に出版されたこの本は、2003年以前は現実に沿ってますが、その後の世界情勢は当然ながら山本さんの創作です。2003年の頃未来予測をするとすればそうなるだろうなぁというアイテムが頻出します

物語の進行上、重要な小道具であるポケタミ(ポケットターミナル)はスマホと置き換えるとほぼストーリーは理解できます。そういった意味でピタッとあたった部分だと思います(iphoneの初代機の発売は、この小説から4年後の2007年)

デノミによる新円発行(1新円=100円)とか北朝鮮崩壊とか、円の暴落はいずれ起きる起きるといわれながら、山本さんの想定時期には起きなかったようです(これは、当時からいずれ起きる起きると言われていたことなので、当時描くのもよくわかるのですが)

小説中に出てくる売れっ子作家加古沢のように、「だから現代ものや近未来ものはいやなんだ 」と山本さんがいいそうですが、読んでいてそれほど違和感のない近未来世界を予測したのは素直にすごいなぁと思います

神とは何かを考えさせられる書

この本のテーマの一つは、タイトルにもある「神」というものは何かについての、とてもSF的な解釈です

神様とは何かということについて、モヤモヤしている部分が誰にでもあるように思います。僕自身、無神論者とまではいきませんが、一方で信心深いというタイプでもありません。だからこそ、神様に対しては以下のような疑問を常に持っています。

神様は結局何もしてくれない。なぜか。

シンプルな答えは「神様はいない」からです。でも、もしいるのだとすれば、戦争や貧困など悲惨なことを放置するのはなぜ?という疑問が渦巻きます。
僕は、最初にこの件についてなんとなく納得する解を感じたのは、星野之宣さんの漫画「宗像教授の異考録」第1巻の中のシーンでした。

梵天(ブラウマー)はなぜ世界を作ったのか
全ての人生を経験するためだ
全ての人生の総体が世界だ
苦難の中で死んでいく経験もあれば
それを鞭打って嘲るものの経験もある…

インド仏教の梵天がなぜ世界を作ったのかという問に対して、全てを梵天が経験するためなのだというシーン。
納得できないものの世界の有様に対してのひとつの考え方としてとても受け入れやすいと思ったのを記憶しています。

一方で、この小説で示されている神様のイメージはそれとは全く異なりますがやはり何もしてくれない神様のことをとてもうまく説明してくれています。

すでに決着のついた問題も

この手の本を読むと、読みつつ要所要所をグーグルで検索する癖があります。
この物語は、科学上未解決な問題がとても重要な意味をもっています。その多くは未解決のままですが、いくつかはこの20年弱の間に解決しています

例えば、「パイオニアアノマリー」は、検索して見ると決着が着いてる模様です

1980年代に発覚した、NASAの探査機「パイオニア10号、11号」の謎の減速現象「パイオニア・アノマリー」の原因は、原子力電池の熱によるものということになりそうだ。過去のデータの掘り起こしとシミュレーションを組み合わせることにより判明した。

小説の最後に出てくる参考図書の膨大さに圧倒されます

上記のような事例はあるもののSF小説としては圧倒的なスケール感があり、SF好きならば是非読んでほしい。近未来SFです。
舞台は過去(2020年に舞台はならない)ですが、全く古びていない小説です


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