[書評]小川一水「天涯の砦」

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たまたま読み始めたら、止まらなくなり、一気に読み通してしまった。宇宙を舞台にしている話ですが、イメージ的には映画の「ポセイドン・アドベンチャー」に似ている話。次々に迫る危機に、なかなか一体とならない背景も年齢も性別も異なる人々が、内面の個人的な事情と戦いながら乗り越えていく様が読み応えがありました。映画化希望!(金かかりそうですが…)

天涯の砦

天涯の砦

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早川書房 (2013-11-15)
売り上げランキング: 18,218

目次

書籍概要

地球と月を中継する軌道ステーション“望天”で起こった破滅的な大事故。虚空へと吹き飛ばされた残骸と月往還船“わかたけ”からなる構造体は、真空に晒された無数の死体とともに漂流を開始する。だが、隔離されたわずかな気密区画には数人の生存者がいた。空気ダクトによる声だけの接触を通して生存への道を探る彼らであったが、やがて構造体は大気圏内への突入軌道にあることが判明する…。真空という敵との絶望的な闘いの果てに、“天涯の砦”を待ち受けているものとは?期待の俊英が満を持して放つ極限の人間ドラマ。

amazonの商品説明より

小川一水さんの作品の中で一番好きな作品になりそうです。

小川一水さんは、僕が熱烈にSFを読んでいた時代(〜91)以降にデビューした作家さんです。その為、名前はしっていたものの、これ以外の作品を読んでも、あまりピンとくるものがありませんでした(ラノベっぽい感じの作家さんだなぁと思っていました)。
最近は、たまに読みやすいSFを読みたい衝動にかられることもあり、久しぶりに小川一水さんの小説を手に取りました。
結果として、一番面白い小説でした。

群像劇好き、パニックもの好き、にヒット

最近わかってきましたが、僕は群像劇が好きなようです。この小説でも、主人公は惑星間航行に憧れ、惑星間航行士という職にチャレンジして失意のもとに帰ってきた二ノ瀬英美ですが、それ以外の登場人物にもそれぞれ背景があり、各々の背景を語るシーンが随所に挟まっています。隔壁と真空に阻まれた個々の環境の中で、お互いが声だけでつながっている状況で紡がれる物語は、各々の心情が良く描かれていると思いました。

パニックものであるが故に、物語全体を貫く非現実的な危機に際し、協力さえもちゃん出来ず時にはいがみ合う人間模様もリアルだなと感じました。

登場人物の成長の物語も、良い

王道の物語らしく、すべてのキャラクターが物語の中できちんと成長していくのも、安心して読み進めていくことが出来る要素でした。

なさそうである未来技術とありそうでないキャラクター

CNWという小説中に出てくる未来のエネルギー技術は、小説を読んでいる間はあまり科学的な根拠を意識せずに読みました。色々都合のいい夢のようなエネルギー技術なので、それが実在し得るとは思えなかったのです。

ところが、作者のあとがきを読むと現在実用化されているカーボンナノチューブの技術の延長上に想定される技術とのこと。ちょっとビックリしました。

一方で、超大金持性格破綻者的なキトゥンという娘のキャラクターは、こういうやついたらむかつくだろうなと思いながら読んでましたが、読後の感想は、いやいや、こんな子供いないから…とツッコミを入れたくなるキャラクターでした。作者さんは、まず苛立つ無茶苦茶なキャラクターを造形した上で、後から彼女の生い立ちを考えたんだろうなと思いますが、なんかとても人工的なキャラクターで本当にこのキャラ必要だったかなぁと思ってしまいました。(もちろん、小説中のキャラは、全員が「人工的な」キャラなのは、間違いないのですが少々度が過ぎていたように思います)

ポセイドン・アドベンチャー!?

読んでる間、何かに似てるなと思いながら読んでいましたが、子供の頃ちょくちょくテレビの洋画劇場で放映されていた(そしてそのたびに最後まで何故かみてしまっていた)、映画の「ポセイドン アドベンチャー」に似ていると言うことに気づきました。

壁一枚向こうが死の世界という設定もそうですし、豪華客船が完全にひっくり返っていると言う映画の中で見た天井を歩き、床を見上げるというシーンのイメージと、この作品中の無重力であるための上下も何も関係のない世界が妙にシンクロしているように思いました。

読み応えもあり、読後感もすっきりした感じでいい作品でした。

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