[劇評]こまつ座「円生と志ん生」@紀伊国屋サザンシアター(新宿)

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こまつ座による「円生と志ん生」の10年ぶりの再演。志ん生をラサール石井さんがやるというキャスティングの魅力は、想定以上の出来。ラサール石井さんがあんなに落語チックなしゃべりが出来るとは。前回印象が弱かった女性キャストも印象深く、音楽劇として楽しく、それでいて戦争の悲惨さがひしひしと伝わる良作でした

劇団 こまつ座
題名 円生と志ん生
公演期間 2017/09/082017/09/24

井上ひさし

演出 鵜山仁  
出演 大森博史:六代目円生こと山﨑松尾
ラサール石井:五代目志ん生こと美濃部孝蔵
大空祐飛:テレシア院長ほか4役
前田亜季:オルテンシアほか4役
太田緑ロランス:マルガリタ他4役
池谷のぶえ:ベルタデッタ他4役
朴勝哲:演奏
劇場
紀伊国屋サザンシアター(新宿)
観劇日 2017年09月09日(マチネ)  

目次

2007年の舞台が気に入っていたこともあり、再演に伺いました

あらすじは上記の記事の物語を参照

円生と志ん生が、終戦間際に満州に渡り、そこで終戦を迎えてしまったために帰国ができなくなった。昭和の落語界の両雄が、戦時中に満州に慰問に行ったというこの史実から着想を得たこの作品は、そもそもとても興味深い話で、前回(10年前)は、その話への期待感だけで観に行きました

そのときに、またあれば絶対に見たい舞台と宣言した舞台ながら、今回の再演にあたり大森博史さん、ラサール石井さんのキャスティングに魅力を感じて早々にチケットを手配しました

戦争の悲惨さ、大陸の混乱

ウィキペディアによれは、二人が満州に取り残され、帰国を待つ間、生死を彷徨うほどの苦労をしたのは史実です

三遊亭圓生(6代目) wikipedia

1945年 (昭和20年)、母親が逝去した5代目古今亭今輔の代わりに満洲映画協会の傍系である満洲演芸協会の仕事で5代目古今亭志ん生や講談の国井紫香らと満州を慰問する。満洲演芸協会の仕事の他に満洲電信電話の新京放送局が主催した演芸会に5代目古今亭志ん生と呼ばれ、当時アナウンサーだった森繁久彌と出会う。終戦で帰国不能になり、現地で演芸会などを催しながら引き揚げ船の出航を待ち、生死ギリギリの生活で志ん生と共に約2年間暮らした。

今回は前回見た時以上にその二人の悲惨な生活ぶりが印象に残りました

二幕で、円生が生活を持ち直すことから、前回の観劇後の印象では、なんか楽しく大陸で彷徨いながら帰国を待ったという印象があったのですが、そうなる前の一幕最後の悲惨な生活ぶりには驚きました

環境の激変の中で芸にかける執念

少佐扱いの軍属として、大金のギャラと引き替えに満州を巡りながら、持ち金も尽きて、旅館をおいだされ、ロシア人相手に身を売る女性たちに匿われ、ロシア人から逃げ出す為に遂には乞食同然の生活まで落ちぶれる

普通ならば生きることで頭が一杯になり、元の自分の仕事なんかどうでも良くなりそうなものです

しかし、この二人はそんな中でも、芸の事は忘れず様々な落語の話をしつづけます。そんな姿に話芸に身を捧げた二人の後の大名人のひたむきな姿を垣間見ることが出来て、感動しました

もちろん、多くはフィクションだと思います。それでも、帰国後に大化けしてともに大名人と呼ばれるまでになった二人のこと。似たような部分があったのかもしれません

ガラクタに囲まれた最底辺の一幕最後。火焔太鼓の話を練る二人

火焔太鼓の冴えない古道具屋の親父の心情に初めて迫ったこのシーンが、僕にとっては今回一番印象に残った場面でした

この芸事にかける執念は、恐らく舞台にも共通していて、井上ひさしさんも、もしかしたらこの執念こそが描きたかったものではないかと感じました

10年前と違う世相が、感想も変える

近隣の国際情勢によってざわつく世相に身を置いていると、このような先の大戦に絡む話を単純に楽しむ事ができないと思いました

一方で、志ん生と円生が語る辛いことや哀しいことを笑いに変える力は今こそ必要なのだともおもいます

落語つながりで先日ツイッターでながれてきた「緊迫の米朝」というこの写真みたいな笑い飛ばす力が必要かもしれません(笑)


女優陣の演技力も印象深い

嫌みな上流婦人、蓮っ葉な娼婦、修道女、物語の中で彼らに関わる様々な人々をたくみに演じる女優のみなさんの存在感も、前回みたときより高かった印象です。

中でも大空ゆうひさん、さすがに歌も演技も群を抜いていました。前回女優陣の印象が弱かったと感じたこの舞台、今回は大空さんの演技が目を惹きました

最後のシーンも、じーんとくる感動がありました

前回はあっさりとか書いてますが、今回は志ん生がようやく引き揚げ船に乗るシーンは感動してしまいました。 そこまでのラサール石井さんの迫真の演技のおかげかもしれません

ラサール石井さん、当たり役だったと思います

大森さんも良かったのですが、少々かみすぎだったのが気になりました

以上 2017年にこまつ座によって上演された「円生と志ん生」の感想でした。

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