邪馬台国は岩手県?邪馬台国の場所に迫る古代史本(その2)

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前回書いた邪馬台国の本の話。続きです。前回は、方向の問題について、科学的なアプローチで、方向を読み替えなくても邪馬台国にたどり着ける説の本を紹介しました。しかし、その本の中では(僕の納得行くようには)、距離が長い理由が説明されていませんでした。

目次

政治的な意図

魏志倭人伝は、学校の授業の中で「日本史」の枠組みで教えられるため、つい日本の中だけの事情を考えてしまいますが、世界史的に視点を広げると別のことが見えてきます。(僕自身は、学校教育で日本史/世界史と分けて教える弊害は大きいなと大人になって感じることが多々ありますが、これなんかもその例です)

当時は三国志の時代であり、魏志倭人伝の魏は、北方の国。南方の呉とは宿命的なライバル関係でした。そして、よく知られている三国志で語られませんが、実は魏呉蜀の三国の覇権争いは、魏によって蜀を滅ぼした後、魏は、司馬懿の子孫司馬炎による「晋」に簒奪されてしまいます。(その後、晋が呉を破って三国時代は終焉)

この歴史書が書かれた時代は、晋の時代で、その晋の建国者の先祖は司馬懿。その司馬懿の実績の一つに、遼東の公孫氏を討った事があります。 この呉と連動をしようとした公孫氏を討った事で、海の向こうの邪馬台国の使者がやってきたというのが、この記事の一つのテーマだったのです。そして、司馬氏の功績を大きく見せ、また南方のライバル呉に対して、巨大な同盟国が海上にいることを記載したいという思いが、この歴史の記述者にあったというのです。 この辺の話がのっているのが、以下の二つの本です。

 

この二つの本によれば、その為には、邪馬台国は呉のすぐ横の海上に存在しないといけないことになります。事実、魏志倭人伝には、場所の説明として最後に以下のような一文があります。

計其道里、當在會稽東冶之東。 (その(倭国の)位置を計ってみると、ちょうど會稽や東冶の東にある。)

この會稽、東冶という地が現紹興市、福建省福州市あたりを指すという(並べて書いてある割にはえらく各々が遠い。)この東には、日本列島はあきらかにない。(あえて近くにそれっぽい場所を探すと台湾島になってします) すなわち、本当はそんなに南にないにも関わらず、距離を本来のわざと5倍にして、場所がその辺になるように書き換えたというのが、上記の二つの本の主張です。 ありそうなことだなぁと思いました。

ちなみに、魏志倭人伝上の全ての行程は、5で割り切れる数字になっているというのも、5倍した根拠の一つになっています。

左記は、「全決着! 邪馬台国: 魏志倭人伝を究極解明」の中の上記の解説文の説明に使われていた図です。

 

同様の理由で邪馬台国の人口も水増しされている

邪馬台国の人口については、七万戸と記されています。1戸あたり何人かは不明ですが、5人だとすると、35万人。 先日紹介した「日本古代史を科学する」の本にそって、宮崎平野に邪馬台国があったとして、現在の宮崎市の人口は40万人。1700年前にほぼ同規模の街があったとはちょっと想像できません。 ちなみに、途中の奴国2万戸も、10万人と考えると(先程の本では、佐賀あたりが比定地ですが)、佐賀市の現在人口は20万人。ちょっと大きすぎる気がします。 この辺も、同様の政治的意図によって、水増しされていると考えられるようです。 一家で五人とするとこの数字。現在の佐賀県より人口多いです。

ちなみに、この2冊の本は、方向も同じ目的で微妙に方向を変えてる説です。伊都国を糸島市、奴国を福岡市と考えると、前の記事で書いたように、北東と南東が違うなど、方角もおかしいとしないといけないことになります。

しかし、方向はそのまま読み、ただ距離を上記の理由で5倍にされたとすれば、矛盾はなくなるような気がします。

ちなみに、邪馬台国に至るまでのこの3冊の本の比定地は以下のようになります。

書籍名 対海国 一大国 末廬国 伊都国 奴国 不彌国 投馬国 邪馬台国
日本古代史を科学する 対馬 壱岐 唐津 東多久(佐賀県多久市東多久町) 久保田町(佐賀市) 佐賀駅近辺(佐賀市) 熊本平野北部(熊本) 宮崎平野・日向灘に面した地(宮崎)
完全決着! 邪馬台国: 魏志倭人伝を究極解明  同上 同上  同上   現糸島市(福岡県) 福岡市(福岡県)  宇美川河口〜香椎宮(福岡県)   行橋市(福岡県) 宇佐市(大分県) 
大和朝廷成立の謎―古代出雲王国から邪馬台国へ  同上 同上  同上   同上 同上  同上(博多湾東岸)  同上 同上 

ご覧のように、実は後者二冊の本は比定地がほぼ一致しています。学会の定説(伊都国=糸島、奴国=福岡)とすれば、結果は大体見えているようです。
そういえば、大昔に読んだ高木彬光さんの「邪馬台国の秘密」も、邪馬台国の比定地は宇佐市だった気がします。(記憶が確かじゃありません)

全ての矛盾を解決すると邪馬台国は岩手にある?

と、ここまでで自分的にはほぼ納得の結果だと思っていたのですが、最近知ったある本で衝撃的な結論を眼にしました。邪馬台国は岩手にあったとう説です。その本は以下の本です(2冊の各々で、邪馬台国岩手説を語っています)小説仕立てですし、とても読みやすいです(短編集です)

以下、ちょっとびっくりなその証明の根拠を見ていきます。
「邪馬台国はどこですか?」の中では、「混一疆理歴代国都之図」を取り上げて方角の違いを説明しています。この図は、14世紀に朝鮮で、それまでの様々な地図を一つにまとめて世界地図にしたという代物です。

その一部のこの図によると、わかりにくいですが日本列島が、九州を上にして、上下がひっくり返っているように見えます。
これに従うと、唐津(末廬国)についた一行は、倭人伝にあるように東南に向かうと、(上下ひっくり返っているので、実際は東北に向かう)そこに伊都国(糸島)があり、更に東南(東北)に奴国(福岡)があるというふうになります。

これ、ちょっとグッと来ました。というのも、「日本古代史を科学する」では、伊都国も奴国も、今の地名的にはまったく該当しない地域が比定されてしまいます。科学的な思考の結果として納得感はあるものの、地名が全く残らない事に違和感を感じます。地名は、古い名前が残りやすく考古学的にとても参考になるものであるという文章を昔読んだせいだと思います。

この小説では、上下逆になっている理由は、当時のChinaが日本に興味がなかったからだという説明になっていますが、上記のように魏国による呉国への威嚇の為の政治的な理由で方向を改ざんしたという理由は十分考えられると思います。
尚、このひっくり返った日本地図上であれば、距離を短里にする必要もなく、うまいこと地名に近い比定地が当てはまります。上記同様にまとめてみます。

書籍名 対海国 一大国 末廬国 伊都国 奴国 不彌国 投馬国 邪馬台国
日本古代史を科学する 対馬 壱岐 唐津 糸島(福岡) 福岡市(福岡) 宇美川河口(福岡) 富山(富山) 八幡平(岩手)

ちょっと説明が必要かもですが、不彌国から投馬国までは、水行で、20日と書いてあるものを素直に日本海を陸沿いにすすめば、富山という説明です。そこから水行で10日、陸行30日も秋田に上陸、奥羽山脈を越えるというルートを取れば岩手に到達という考えです。八幡平は、平をあえて「たい」と読んでいることから、「ヤマタイ」だったという説明です。
ちなみに、ネットで調べると、八幡平には別の命名起源があるようですが…

地名の対応が割りとできていて、距離をいじらず日本列島を反転させたという発想。とても面白いと思いました。(その反転も、魏史を書いた人の政治的意図を組んだ改ざんだとすると余計に)

ちなみに、二冊目の「新・日本の七不思議」では、卑弥呼が亡くなった原因が当時発生した皆既日食であったという説を根拠にした説明がなされます。この説は、他の本でも読んだことがあったのですが、実は近畿地方でも九州でも3世紀に発生した皆既日食は観測できなかったというのは初耳でした。この時代にあった皆既日食は、岩手を含む東北でのみ観測可能だったというのは、なかなか説得力のあるところでした。

「完全決着!」とか、「科学的に..」とか、「他に考えられない…」とか色々な本で色々な説があって、そのどれももっともらしいというのが、この邪馬台国の本の面白さですね。しばらく、「邪馬台国」というタイトルの含まれる本を衝動買いする状況は変わりそうにありません。

「卑弥呼は誰か」「正史にないのは何故か」の謎は、別の機会に記事にしようと思います。(長くなりすぎました。ごめんなさい)

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2 件のコメント

  • スマホで無料で読めるWEB小説のご紹介です。短編なので小一時間で読破出来ます。挑戦してみては如何ですか。世界は広いと感じる筈です。時間軸においてですが。
    WEB小説「北円堂の秘密」が今夏の隠れたベストセラーと知ってますか。
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    日本文化発祥地の鍵を握る小説なのでご一読をお薦めします。
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    貴職におかれてもホットな話題を知っておくことは仕事に少なからず役立つでしょう。
    先ずはブログ主様ご本人からベストセラー小説「北円堂の秘密」の読破をされては如何だろうか。
    読めば日本史のミラクルワールド全開です。お友達に教える時はネタバレ無しで口コミして下されば幸いです。

  • 邪馬台国岩手県八幡平市平泉町中尊寺金色堂 より:

    邪馬台国岩手県八幡平市平泉町中尊寺金色堂 平泉駅から行ける中尊寺金色堂に卑弥呼も祭られているらしいですね。

    また岩手に行きたいです。

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