[劇評]iaku「流れんな」@JMSアステールプラザ(広島)

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iakuという劇団の名前は以前から知っていましたが、今回が初観劇でした。そして、これが見逃せない舞台であったことを実感し、今後の公演にも大いに期待しています。

劇団 iaku
題名 流れんな
公演期間 2024/9/6~2024/9/8

横山拓也

演出 横山拓也
出演者 異儀田夏葉::鳥居睦美(姉。家業の居酒屋手伝い)
宮地綾::佐藤皐月(妹。結婚して家を出た)
今村裕次郎::田山司(休業中漁師。睦実の幼馴染)
松尾敢太郎::佐藤翔(皐月の夫)
近藤フク:: 駒田広(単身赴任でこの街にきた)
劇場 JMSアステールプラザ 多目的ホール(広島)
観劇日 2024年9月6日(ソワレ)

目次

iakuとの出会い — 想像以上の感動と後悔

私は、iakuという劇団の名前を以前から知っていましたが、これまで実際に舞台を見る機会がありませんでした。今回『流れんな』を観劇し、その素晴らしさに圧倒され、俄然iakuに対する興味が湧いてきました。これまで彼らの作品を見逃していたことが、今では少し悔やまれるほどです。この舞台を通じて、iakuが生み出す独特の世界観緻密な演出に触れ、彼らの過去作品にも遡ってみたいという気持ちが強まりました。

人間の「闇」が絡み合う物語 — 誰もが抱える心の葛藤

『流れんな』は、一見普通の地方の居酒屋を舞台に、5人の登場人物が織りなす物語です。しかし、その平凡な日常の風景の中に、私はそれぞれの人物が抱える「闇」を感じずにはいられませんでした。過去のトラウマ、隠された感情、言い出せない本音——これらが絡み合い、物語は進行します。登場人物たちの「闇」が次々と明らかになるたびに、私は彼らの運命に引き込まれていきました。そして、その絡まりが一気に解ける瞬間、人間の心の複雑さに直面し、深い感動を覚えました。

物語が進むにつれて、それぞれのキャラクターが抱える秘密が次第に明らかになります。特に、田山司が明るさを装いながらも深く抱えていた傷が露わになるシーンは、胸が締め付けられるような瞬間です。そして、彼がその傷と向き合わざるを得ない状況に追い込まれたとき、その痛みが舞台全体に広がり、私の心に深く刻まれました。

揺れ動く感情と緊迫感 — 俳優たちの熱演が生むドラマ

『流れんな』の真骨頂は、登場人物たちの感情のぶつかり合いです。特に印象的だったのは、最後に司が睦美に受け入れられない理由がついに明らかになる瞬間。これまでの司の明るさが一気に崩れ去り深い絶望に沈んでいく様子を見たとき、私の心も一緒に沈んでしまいました。

また、姉妹の睦美と皐月が、表面上は反目し合いながらも、内心ではお互いを認め合っていることが分かるシーンも忘れられません。ここでは、俳優たちの繊細な演技が光り、彼女たちの感情の奥深さに触れた瞬間、思わず涙がこぼれそうになりました。こうした感情の揺れ動きが、物語全体に漂う緊張感をさらに高め、私を物語の核心へと引き込んでいったのです。

巧妙に編み込まれた物語の構成 — 逸れることのない語り口

本作の物語構成は、シンプルながらも非常に巧妙に編み込まれています。物語は地方の何気ない居酒屋の一室で展開される会話劇でありながら、その会話の中には現代社会が抱える複雑な問題が散りばめられています。過疎問題、大企業と地方政治の癒着、不正、介護、出生前診断の倫理問題——こんなに多くのテーマが次々と議論される中で、私は頭をフル回転させながら物語を追いかけることになりました。

それでも、このように多くのテーマを扱いながら、物語が逸脱することなく、しっかりと主人公・睦美の心情変化に焦点を当てて進行する点は見事です。異儀田夏葉さん演じる睦美の内面が丁寧に描かれていることで、私は物語の進行に合わせて彼女の心の旅路を共に歩み、最終的には物語の結末に深い共感を覚えました

科学的視点と感情的反応 — 佐藤翔の提案が生む対立

物語の中で、佐藤翔が提案するSF的な「心の中の思い出を映像化するサービス」に関する会話は、一見すると物語の流れから浮いているように見えるかもしれません。しかし、このシーンが物語の核心に迫る鍵だと感じました。翔の提案は非常に論理的で、彼自身は冷静にその考えを述べますが、他の登場人物たちは感情的に反発します。この対立が物語全体に独特の緊張感を与え、私にも新たな視点を提供してくれました。

翔が冷たい人間ではなく、彼なりの理屈と信念に基づいて行動していることが分かると、私もまた彼の考えに対して新たな理解を得ました。このように科学的視点と感情的反応が交錯するシーンは、物語に深みを与え、単なる会話劇以上の哲学的な問いかけを私に投げかけてくれました。

居酒屋のセットで紡がれる1時間40分のリアル

『流れんな』は、舞台が一度も場面転換せず、1時間40分という時間が現実と同じように進行するという独特の演出が特徴です。舞台装置は非常に具体的で、親しみやすい居酒屋のセットが使用されています。このシンプルでわかりやすい空間の中で、物語は次第に深まり、キャラクターたちの感情が絡み合い、劇的な展開を見せていきました。横山拓也氏の演出力の高さが光り、始まりから終わりにかけての状況の変化が見事に表現されていました。

舞台が進行する中で、登場人物たちの過去と現在が交錯し、それが目の前でリアルタイムに展開されていく様子は、まさに「劇場ならでは」の体験です。何気ない日常の風景が、実は複雑な人間関係深い感情に彩られていることに気づかされたとき、私はその物語の奥深さに引き込まれ、舞台の一部となっていました。

総評 — 次回公演が待ち遠しい

『流れんな』は、一見すると何気ない日常の一部を切り取っただけのように見えますが、その中には多くの「闇」と「光」が交錯しています。登場人物たちの葛藤や感情の揺れ動きを見事に描き出し、私をその世界に引き込む力を持った作品です。次回公演があるならば、ぜひとも足を運び、その独特の世界観を味わいたいと思わせてくれる舞台でした。

また、この舞台を見逃してしまった方にとっても、強烈な印象を残す作品だったことは間違いありません。次回の公演では、ぜひその目で確かめてみてください。

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