2024年12月、劇団桟敷童子の25周年記念となる新作公演『荒野に咲け』を観劇しました。これまで昭和初期や明治末期など、時代背景のある舞台が多かった桟敷童子ですが、今回はスマホが登場する現代劇。とはいえ、内容は決して明るいものではなく、家族や人間同士が本当にわかりあえるのかを突きつける、胸をえぐるような物語でした。以下では、公演の印象をいくつかの視点で振り返ります。
劇団 | 劇団桟敷童子 | |||||
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題名 | 荒野に咲け | |||||
公演期間 | 2024/12/15~2024/12/24/span> | |||||
作 |
サジキドウジ |
演出 | 東憲司 | |||
出演者 |
川原洋子:古橋澄恵(旧姓松尾・松尾家の長女) 原口健太郎:古橋達郎(澄恵の夫・食堂ふるはしの店主) 増田 薫:古橋恵子(達郎と澄恵の娘) 吉田知生:古橋耕一(達郎と澄恵の息子) 柴田林太郎:徳井秋彦(食堂ふるはしの従業員) 山本あさみ:丹羽幸子(食堂ふるはしの従業員) 前澤亮:中村和馬(食堂ふるはしの従業員) 藤澤壮嗣:常松駿介(食堂ふるはしの従業員) 板垣桃子:篠塚孝子(旧姓松尾・松尾家の次女) 三村晃弘:篠塚平(孝子の夫・七年前に死去) 大手忍:篠塚香苗(平と孝子の娘) 加村啓:篠塚学(平と孝子の息子) もりちえ:稲森勝代(旧姓松尾・松尾家の三女・静雄の後妻) 稲葉能敬:稲森静雄(勝代の夫) 井上莉沙:稲森彩音(静雄の娘・前妻の子) 鈴木めぐみ:留森ヒサ(40年以上別居している静雄の母親) |
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劇場 |
すみだパークシアター倉(本所吾妻橋)
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観劇日 | 2024/12/22(マチネ) |
目次
三姉妹をめぐる家族の軋轢
物語は、それぞれ結婚して家庭を持つ三姉妹を中心に展開します。長女の夫が子どもたちの中学時代に自死してしまったことが、全体の暗い影を落とすきっかけとなり、姉妹とその家族のあいだで少しずつ積み重なってきた不信や嫉妬、羨望が浮き彫りになっていきます。
たとえば、生活レベルや価値観の違いを羨んだり、逆に苦手意識を持っていたり……。そうしたわだかまりが家族内の会話で次々と明らかになり、それぞれの家族が抱えていた“わかりあえなさ”が、舞台の隅々にまで染み出していくようでした。
いとこ同士の結束がかえって際立つ
大人たちの複雑な関係に対して、いとこ同士の仲の良さは微笑ましくもあり、同時に一種の切なさも感じさせます。子ども同士は隔たりなく思い合っているのに、大人たちにはうまく溶け合えない苦々しさがある。そのコントラストが「本当はどうすればよかったのだろう?」と問いかけてくるようで、観ながら自分自身の子ども時代や親戚づきあいを思い返さずにはいられませんでした。
大手忍さんの鬼気迫る演技
今回、最も難しい役どころを演じていたのが大手忍さん。家族関係の重苦しさを背負いこむ表情や感情の爆発は、観客の心を揺さぶるものでした。物語が進むにつれ、「彼女は救われるのか、それとも救われないのか」という問いが、最後の最後までわからない緊張感を生むのも印象的でした。結果的には希望の光が差すような幕切れでしたが、その一瞬を迎えるまでの大手忍さんの迫真の表現力に息を呑みました。
シンプルな装置を生かす大胆な演出
桟敷童子といえば、独創的な舞台美術やダイナミックな演出が見どころの一つですが、今回は特にシンプルなセットが用いられていました。しかし、広々とした空間を最大限に生かす演出はダイナミックさを失わず、後半にかけては装置を大胆に崩していくような場面も。「やはり桟敷童子らしい!」と思える瞬間がたくさんありました。
なお、最後のクライマックスで登場する蒸気機関車は、かつての舞台『泥花』に出ていたものと同じみたいでした(DOROHANAと書いてあった🤣)。
激しい演出シーンでは役者さんの怪我を心配してしまうほどでしたが、その懐かしさも相まって、終盤まで目が離せない仕掛けが散りばめられていました。
僕が「泥花」を見たのは…
え、2008年!。え、16年あの機関車保存してたわけじゃないよね….😅
変わらないメンバーへの安心感
筆者が初めて桟敷童子に出会ったのは23年前。
そのとき出演していた原口健太郎さん、稲葉能敬さん、鈴木めぐみさん、板垣桃子さんなどが、今回も舞台に立っているのを見て、とても安心しました。もちろん年齢を重ねているはずなのに、舞台上に立つ姿は昔と変わらずエネルギッシュ。自分自身の思い出も蘇り、これまでの作品群を通じて紡がれてきた劇団の“物語”を再確認するひとときでもありました。
新しいメンバーの成長も心地よい
一方で、最近入った役者さんたちも徐々に担う役によってかなりイメージが変わり、成長著しいなと感じました。
井上莉沙さんは、今までの印象を一新するようなブリーチした髪で、少ない出番ながらキレてる若者を見事に演じていました。逆に過去作ではわりとひ弱な現代っ子、根性なし男児の典型みたいな役(🙏🤣)が多かった吉田知生さんは、今回は何か頼れるお兄さんになっていて(舞台でしか見てないから本人の人間性はわかりませんが)、おお、成長しているなぁと感じたりしました。
このあたりの俳優さんを見ている目が、ほぼ甥っ子を見ている目とおなじになってきている気がします😂
終わりに──暗い物語が照らすもの
『荒野に咲け』は、家族や人間関係の暗部に深く踏み込んだ作品でした。しかし、その暗さゆえに救いの場面が際立ち、観終わったあとに「人は分かりあえないかもしれないけれど、だからこそ生きていくのだ」という不思議な活力が得られたようにも思います。劇団桟敷童子ならではの力強い演出と長年の積み重ねが生み出す世界観を堪能しながら、家族人間を見つめ直す貴重な機会でした。
25周年という節目にふさわしい濃密な作品を観られたことを嬉しく思うとともに、今後もこの劇団がどのような“荒野”に咲いていくのか、楽しみにしています。
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