[劇評]本多劇場プロデュース「BIRTHDAY」@THEATER/TOPS(新宿三丁目)

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出産間近の「夫」と妻の病室で繰り広げられる、笑いと皮肉の効いた会話劇

劇団 本多劇場グループ
題名 BIRTHDAY
公演期間 2024年7月24日(水)〜2024年7月30日(火)

ジョー・ペンホール

演出 大澤 遊
出演者 阿岐之将一:エド(妊夫・30代)
宮菜穂子:リサ(妻、今回は夫に妊娠を任せた。一児の母 30代)
山崎静代:ジョイス(助産師。黒人・30代後半)
石山蓮華:ナターシャ(研修医・20代後半)
劇場 シアタートップス(新宿三丁目)
観劇日 2024年7月27日(土) マチネ

目次

公演概要

2024年7月27日のマチネ公演、本多劇場プロデュースの『BIRTHDAY』を観劇しました。この公演は、出産間近の夫婦の病室での会話を中心に展開する物語です。夫であるエドが妊娠出産を担うという異例の設定から始まります。妻役の宮さんがヒステリックなエドに寄り添おうとする姿が印象的で、阿岐之さんの男の妊娠出産という難役に全力で取り組む演技には感動させられました。

ストーリーとテーマ

物語は、エドと妻が病室で口論を交わすシーンから始まります。彼らは一人息子チャーリーの妹が生まれるのを待っている普通の英国夫婦ですが、今回はエドが妊娠出産を担うという特異な状況にあります。エドは、NHS(英国の公的病院サービス)に対する不安から精神的に不安定で、妻との間で激しい口論を繰り広げます。病院の対応に苛立つエドと、それに寄り添う妻の姿を通じて、男女逆転の妊娠出産の苦悩と喜び、そして英国の公共医療サービスの問題点が浮き彫りにされます。

印象に残ったシーンと演技

特に印象に残ったのは、阿岐之さんと宮さんの激しい口論のシーンです。阿岐之さんは、誰も経験したことのない男の妊娠出産をリアルに演じ切り、その苦悩や不安を見事に表現していました。宮さんは、妊娠出産を経験した妻として、ヒステリックなエドに寄り添おうとする姿が非常に感動的でした。

舞台装置と演出の工夫

舞台美術は具体的な病室を再現しており、時間経過を示すために舞台奥中央にある時計が効果的に使われていました。暗転中にスポットライトを浴びる時計が進む様子は、病院の対応の遅さと対照的で、観客に笑いを誘う場面でもありました。この演出により、時間の経過と共に高まる緊張感が巧妙に表現されていました。

キャストのパフォーマンス

黒人の助産師役を演じた山崎静代さんの演技も印象的でした。彼女の不気味ながらもひょうきんなキャラクターは、緊張感を和らげつつも物語に深みを与えていました。研修医役で登場した石山蓮華さんも、そのはつらつとしたクレバーな演技で観客を魅了しました。ラジオパーソナリティとしての一面しか知らなかった彼女の新たな一面を垣間見ることができ、非常に新鮮でした。

感情と考察

この舞台を通じて、出産の大変さや喜びを新しい視点で体感することができました。また、英国のNHSの問題点についても深く考えさせられました。コロナ禍で一部で称賛されていたNHSの現実を垣間見ることで、公共医療サービスの課題について改めて考える機会となりました。

観客の反応

観客は幅広い年齢層で、石山蓮華さん目当ての方々も多く見受けられました。舞台に慣れていない観客も多かったようですが、総じて楽しんでいる様子でした。特に隣に座っていたカップルの一人が「こんな狭い舞台で、1時間半も何をするんだろう」と話していましたが、終演後には満足そうな表情をしていました。

総評

本多劇場プロデュース『BIRTHDAY』は、ジェンダーや人種差別、公共医療サービスの問題など深刻なテーマを扱いながらも、コメディテイストで親しみやすい作品でした。4人芝居とは思えない濃密な会話劇で、観客を引き込み、楽しみながら深刻なテーマについて考えさせられる素晴らしい公演でした。演技、舞台装置、演出すべてが見事に融合し、忘れられない観劇体験となりました。

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