「劇団4ドル50セント」が突きつける小劇場演劇界の歪み

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あの秋元康さんが、今度は演劇の世界に参入してくるという「劇団4ドル50セント」が話題です。ナマモノの舞台という意味で、今ままでにプロデュースされてきたアイドルの世界と劇団は相性も良さそうですし、何よりも新規参入による観劇人口の増大は、元々演劇を見る立場の人間からすると大歓迎です。ただ、劇団の設立にあたって「演技未経験者が9割」を売りにしていることがちょっとひっかかりました

目次

演劇には、技術と経験は不要なのか?

秋元康さんプロデュースの劇団の旗揚げが話題です

 

「劇団4ドル50セント」は劇団員の9割が演技未経験の、フレッシュで熱量あるメンバーが所属。番組の冒頭に、現役高校生の18歳・國森桜が「秋元康さんがプロデュースする新しいエンターテイメント集団です。オーディションで選ばれた男女30名以上が所属しています。これから、劇団員で協力していきますので応援よろしくお願いします!」

演技未経験者が9割というのをいくつかの記事で強調されているのが気になりました。オフィシャルサイトにも明記されています

未経験者であることが強みになる世界?

スポーツではあり得ない話です。例えば、新たなプロスポーツチームを作るので素人集めましたでは、

笑い話にしかなりません

体育会系に限らず他の芸能分野でも同じでしょう。音楽の楽団を作るとか言っても当然に技術と経験が求められますし、歌舞伎等伝統芸能の世界に至っては「血」を含めた長い修業が芸の基礎を作っています

趣味でやる活動でもない限り、「興行」として成り立たせる(≒観客にお金を払ってみてもらう)為にはある程度の「経験」と「技術」が必要になります。なのに、演劇の世界では、今回に限らずしばしば「未経験」がものを言う事があります。

何故、演劇だけにこういう傾向があるのでしょうか?

大学時代の経験

今回の「劇団4ドル50セント」でも、若い出演者を集めたようで、上記の記事でも現役高校生の國森桜さんが、代表してインタビューに答えています。

おそらく、高校の演劇部出身というわけではないのでしょう

大学生になって演劇を始めた僕も、高校時代から演劇をやっている同期が先輩から「今までの考え方を捨てろ!」と言われていいたのを見た経験があります。

高校演劇は、興行としての演劇に馴染まない?

先輩は、高校の演劇は、「役を冠る演技」、興行としての演劇は「自らを晒す演技」であり、まるで違うから考え方を変えろと言っていたと記憶しています。

演劇を始めたばかりの僕に、当時その意味するところは実のところピンと来ていませんでしたが、今は、以下のように解釈しています。「今までのやり方を忘れ、この集団のやり方に一から合わせろ」と。

「役を冠る」「自らを晒す」は、どちらも演劇をする上では必要な技術ですし、長年観客側から舞台を見ている身からしても、「役を冠る」と面白くないとか「自らを晒す演技をする役者は面白い」とか一概に言える訳ではないとも感じています。

即ち、演劇には、勝ちパターンが存在しない世界なのです..

面白ければ良い。計算が通用しない世界

実際、高校演劇の部活動を母体として大活躍をしている劇団もあります(有名所では、「扉座」など)。高校での演技経験が演劇活動に役に立たないなんてことはないのだと思います

一方で、演技を専門的に学ぶことなく俳優/女優として活動されている方もたくさんいます

変な話、高校演劇で全国大会で優勝しても、劇団四季等名だたる商業劇団からスカウトがやって来るわけではありません。(この辺の話は、まさに高校演劇の世界で頂点に立った経験のある横内謙介さんの扉座の舞台「ホテル・カリフォルニア」で面白おかしく語れています。

見る側の立場から言っても、観に行く公演選びの際に確かに「出演者の演技経験」を重視していないのも確かな気がします。面白ければよく、その面白さには計算が通用しません(演技経験者を何人集めれば、面白いか、作家/演出家の組み合わせがどうであれば、面白いかはわかりません)

客を呼べることが正義

猫のホテル池田鉄洋さんの名言です。(小劇場界では他でも言われているのかもしれませんが、僕はテレビで池田さんがこの言葉を言っていたのを聞いて名言だと思いました)

当然ながら、今回の「劇団4ドル50セント」も、客が呼べる事がいちばん大事なはずです。数々のアイドルユニットを成功に導いた秋元康さんの勝算はどこにあるのでしょうか?

育成ゲームか?

と考えると、おニャン子クラブ、AKB48等のアイドルグループを育てた秋元康さんの戦略は、「未経験」から「観客を感動させる演技をする俳優」へ成長する過程を見せることではないかと思いました。

私自身は、初期モーニング娘。がデビューにいたるテレビ番組「ASAYAN」にハマった口なので、この手のマーケティング方法がとても効果的であることは身をもってわかっています。

一方で、この方法は、一過性の要素が強いと思います。モーニング娘も、AKB48もメンバーを何度も変えながら同じマーケティングをやってきましたが、すこしづつ効果が減衰してきているように思います。

それでも、この方法が一定の成果をあげるのは間違いないでしょう。

観客層が広がってほしい。そして 良質の舞台、生の舞台の魅力にとりつかれて欲しい

このきっかけで、観客層が広がってくれるのは良いことですし、期待しています

一方で、演技未経験者が、このような形でいきなりスターダムになるという道を作ることが、演劇界として良いことなのかどうかはちょっとわかりません。

ただ、この劇団出身の舞台制作者が活躍する未来をイメージしにくいのは僕だけでしょうか?

以上 秋元康さんプロデュースの「劇団4ドル50セント」から感じた現在の小劇場演劇界の歪みについての雑感でした。

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