劇団桟敷童子による新作公演『蝉追い』。昭和60年代の福岡・炭鉱街から農村へと移り変わった田舎町を舞台に、30年ぶりに戻った母、認知症を抱える父、3姉妹の再会と再生を描く。五感で体験する本水土砂降り演出と、劇空間崩壊のラストが印象的。

劇団 | 劇団桟敷童子 | ||||
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題名 | 蝉追い | ||||
公演期間 | 2025/5/27~2025/6/8 | ||||
作 | サジキドウジ | 演出 | 東憲司 | ||
出演者 |
山本旦: 簗瀬守男(簗瀬農園の主) 板垣桃子: 簗瀬美穂(簗瀬家の長女) もりちえ: 神崎典子(簗瀬家の次女) 大手忍: 簗瀬千尋(簗瀬家の三女) 鈴木めぐみ:中村嘉代(中村組の社長) 瀬戸純哉: 松尾宗助(中村組の親方) 川原洋子:松尾明子(中村組従業員の宗助の妻) 稲葉能敬:園部宗彦(中村組の経理担当) 山本あさみ:広渡しの(中村組従業員) 吉田知生:西村琢也(中村組従業員・西村三兄弟長男) 藤澤壮嗣:西村太一(中村組従業員・西村三兄弟次男) 加村哲:西村時男(中村組従業員・西村三兄弟三男) 柴田林太郎:古池鉄二(中村組従業員) 前澤亮:青嶋周平(青嶋農園の息子) 増田薫:青嶋遙(青嶋農園の娘・周平の姉) 三村晃弘:神崎邦光(典子の夫) 藤吉久美子:鍋倉瑞枝(三年前に家族で移住してきた女性) 原口健太郎:鍋倉一樹(瑞枝の夫) 井上莉沙:野川りん(瑞枝の姪) |
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劇場 |
すみだパークシアター倉(本所吾妻橋)
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観劇日 | 2025/6/7(マチネ) |
目次
はじめに
2025年6月、長年観劇を続けている桟敷童子の最新作『蝉追い』を観に行きました。思えばこの劇団を追いかけて、もう20年以上になります。私にとっては特別な存在の劇団。その中でも今回の『蝉追い』は、深く心に残る舞台となりました。
作品概要と舞台設定
舞台は昭和60年代ごろの福岡県の田舎町。かつて炭鉱で栄えた町は、今では農村へと変わった静かな土地です。そこに一人暮らしの父のもとに、見知らぬ女性が出入りしているとの知らせを受け、3姉妹が実家に戻ります。実はその女性は、30年以上前に家を出た母親でした。
こうして始まる、家族の再会、崩壊、そして再生の物語。懐かしさと、今の時代にも通じる重みが交錯する深いストーリーが展開されます。
演技陣の熱量と印象深い役者たち
鈴木めぐみさん(母親役)は、これまで脇を固めてきたことがおおかったが、今回は物語の中心として、揺れる心情と強さを見事に演じきりました。
三姉妹を演じた板垣桃子さん、もりちえさん、大手忍さんは、それぞれに個性があり、母への葛藤と家族としての絆をリアルに描いて胸を打ちました。
認知症を抱える父親を演じた山本旦さんは、静かな迫力で記憶の崩壊を表現し、深い印象を残しました。
地域の人物を演じた増田薫さん、原口健太郎さん、藤吉久美子さんらも、作品に温かみと厚みを添えていました。
昭和の時代と現代をつなぐテーマ
作品の主題は認知症(当時は“痴呆症”)と家族の向き合い方です。時代や地域を超え、親の老いと家族の責任、寄り添うという問いは普遍的で、今の私にも深く胸に響きました。
圧巻の演出と舞台美術
桟敷童子ならではの“本物”の演出が光ります。終盤、本物の水による土砂降り演出は圧倒的。観客を感覚として捉えて離さない体験型の名場面でした。
最後には舞台背景が崩れ、水が流れ込む“劇空間の崩壊”。現実と幻想の境が消える象徴的なクライマックスは、美しさと力強さを兼ね備え、息をのむ演出でした。
次回作への期待
物語の根底には1914年の炭鉱事故という地域の歴史があります。次回作『1914大非常』との繋がりも予感させ、劇団の“物語の連なり”にますます興味が湧きました。
ちなみに、検索すると以下のような炭鉱事故があったようです
おわりに
『蝉追い』は、単なる昭和回顧ではなく“今を生きる私たち”の物語です。家族の形、老いとの向き合い、支え合いなどのテーマを力強く、ユーモアとダイナミックさを交えて描いた名作。劇場で土の匂いと水の音を感じながら観る価値のある、忘れ得ぬ観劇体験でした。
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