サイトアイコン 演劇とかの感想文ブログ

[劇評]やみ・あがりシアター「すずめのなみだだん!」@駅前劇場


会話も物語のテンポも現代的で、登場人物の造形がすばらしい。100分の上演時間はあっという間に過ぎる。知ったのは随分前だったのに、これまで見に行かなかったことを悔やみました。

劇団 やみ・あがりシアター
題名 すずめのなみだだん
公演期間 2023年1月6日~2023年1月8日

笠浦静花

演出 笠浦静花
出演者 土本燈子:すーちゃん(信仰の地から、すずきについて外に出た)
加藤睦望:すずき(信仰の地から、外にでる決断をした)
みつごろう:日辻直美(靴屋の店主)
利佳:日辻マリア(靴屋の娘)
見米克之:八木(靴屋の居候)
大塚由折子:久地楽(定時制高校の英語教師)
石川将丸:亜由沢(定時制高校の生徒・マッサージに通う)
星秀美:安治野(定時制高校の生徒・ヤンママ)
小林桃香:岩名(定時制高校の生徒・帰りたい…)
湯浅くらら:及川(定時制高校の生徒・升味とラブラブ)
喜田裕也:升味(定時制高校の生徒・亜由沢と同じ職場)
ふじおあつや:佐波(役所の公務員)
劇場 駅前劇場(下北沢)
観劇日 2023年1月7日(マチネ)

目次

ようやく出会えた劇団

実は、この劇団を知る前に、主宰の笠浦静花さんのことは知っていました。
最初の笠浦さんを観たのは、会社の後輩が出演する舞台でした。そういう意味では、笠浦さんについては、知り合いの知り合いという感じで、勝手に親近感をもっています(直接の面識はまったくありませんが🤣
その頃から、印象に残る女優さんで、とても雰囲気があり、見るたびに違う演技をする女優さんでした
最初に見たのは10年前

[劇評]劇団ダブルデック「ぐぐるくん!?」@「タイニィアリス


最後に見たのは、8年前

[劇評]立ツ鳥会議「ゆうちゃんの年」@シアターシャイン


その時に、彼女がやみ・あがりシアターという劇団の主宰者であることは知っていましたが、見ることはありませんでした(単純にタイミングがあわず…)

最近、僕が管理している演劇感想文リンクでも、たびたび他の劇評者、レビューアーの方が観劇に行かれてレビューをあげることが多くなりました。

やみ・あがりシアターの舞台作品/公演についてのレビュー/劇評を一元的にリンクしております。最新の舞台である「Show me Shoot me」だけでなく過去の舞台についても厳選した...
やみ・あがりシアター | 演劇感想文リンク - 演劇感想文リンク
最初に名前を知ってから、随分経ちましたがようやく公演に伺うことができました
(ここまで長かった….)
ここからはネタバレします

初めての劇団の不安が増す導入部

女優としての笠浦さんの実力はイメージできるものの、最近は舞台に出ていない様子。そういった意味では、上記のような経緯があるとしても始まるまでは不安でした

いや、最初の5分は更に不安が高まりました🤣
セリフがほぼわけわかんないし、みんな雀になったようになって喋っている。
既に何回か観たことのある劇団であれば、どこかで普通のセリフ回しの物語に戻ると安心して見れますが、初めてだと戻ってこないかもと不安になります

初めて笠浦さんを観た舞台が、そもそもかなり独特のセリフ回しでついていけなかったという苦い記憶が蘇ります(上記ぐぐるくんの劇評参照)
とはいえ、一番衝撃的でかつまったくついていけなかったのは、若き日の堺雅人さんを擁していた東京オレンジの舞台だったわけですが…

ま、上記の不安は導入部分が終わると解消され、最初のシーンは、山奥にある新興宗教の日常ということが明かされて安心します

この時期に新興宗教?

今回の舞台は新作ではなく、5年前の作品の再演とのことで、再演作品も投票で選んだそうです
5年前はともかく、今の御時世に新興宗教を物語のネタにいれるのはそれなりに勇気のいる決断ではないかなと、物語の序盤は感じていました

しかし、特に新興宗教がメインテーマというわけでもなく、ましてや新興宗教に対して融和的でも批判的でもない物語でした
あくまでも価値観の違う異邦人(すーちゃん)のキャラクタを作る方便として新興宗教を使っているという印象です

それでいて、不思議な信仰(というか人生訓やポリシーと呼んだほうよいような言葉)が、すこしづつ周りを感化していくさまが面白いです
人がなにか、ふわふわした不安の中にあるときに、それが一見違和感の塊のような言動であっても、自信と信念を持って振る舞うならば、まわりはそれに流されるという姿が自然にみえました

視覚的にも、裸足のすーちゃんと周囲の靴を履いているという人という対比が、自然体と世間体といったものに置き換えられているのかもしれません。世間体を気にする人(靴を履く人)が、自然体に憧れる感覚。世間体を気にしている人が、靴をぬぐことで素直になっていくというのが物語に没入し易い仕組みでした

キャラの立った群像劇

キャラクタのたった登場人物を全員素なのかなと思わせる自然さで演じていた役者陣はどの方も良かったです
以下の二人は特に印象に残りました
加藤さん・・・なんか思い詰めたような目が印象的で、雰囲気が他の俳優さんとことなる印象的なイメージです。劇中唯一裸足から靴を履く人に変化する役で、その独特の雰囲気と役がはまっていたように思います。10年前の上記ぐぐるくんでみたときは、独特の台詞回しに翻弄されたあまり記憶に残っていませんでしたが、今回は印象深かったです。
大塚さん・・・先生という枠にはまらないかなり自由なキャラクタでしたが、年齢が近い(あくまで相対的に🤣)せいか出てくると安心して見れていました

脚本が素晴らしい

会話の組み立て方が若いよなと思いました。昔、笠浦さんが参加されていた他の方の書いた本でも思い知らされましたが、会話の組み立て方に若さを感じました

テンポもすごく良かった

例えば、海に行くってシーンで、その場で上に着ている服を脱いで、水着姿になってしまうなんていう場面転換は、斬新に思えました
若い女の子の水着姿がおじさんには眼福であったことを差し引いても、このシーンの鮮烈さは印象に残りました

全編にほぼ暗転なく場面を次々に変える手法もさすが。その御蔭で、ラストシーン近くの暗転がかなり「効いて」いました

伏線回収もおしゃれ

英語の授業の中に出てくるNo Woman No Cryが、新興宗教のテーマソング的なものでありつつ、二重否定という英語の文法の説明になり、最後に「なしはなし」という若者言葉の中にある二重否定につながるあたりは、おしゃれだなぁと感心してしまいました

笠浦さんの言葉の感覚がとてもポップで、心地よいものに思えました

今まで見なかったのがもったいなかったです

地方在住なので、必ずとは言えませんが、今後は公演情報チャックして又見に来たいと強く思いました

モバイルバージョンを終了