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[劇評]パラドックス定数「Das Orchester」@シアター風姿花伝(椎名町)


明言されないがナチス政権初期に、音楽の力を信じた指揮者/楽団と政府との静かな攻防の物語。歴史を扱い、音楽を扱いながら今の時代における芸術全体の普遍的な役割と人が人を思う力の強さを感じさせる舞台でした

劇団 パラドックス定数
題名 Das Orchester(ダス・オーケスタ)
公演期間 2019/03/19〜2019/3/31

野木萌葱

演出 野木萌葱
出演 西原誠吾:指揮者
松本寛子:秘書官
小野ゆたか:事務局長
皆上匠:ヴァイオリン奏者
生津徹:チェロ奏者
浅倉洋介:新聞記者
植村宏司:宣伝相
井内勇希:将校
劇場
シアター風姿花伝(椎名町)
観劇日 2019/03/30(マチネ)

目次

指揮者と演出

学生時代、演劇をやっていた私とオーケストラのチェロをやっていた友人とでお互いに疑問をぶつけ合ったことがあります

私「指揮者ってなんでいるの?」

チェリスト「演劇の演出ってなんでいるの?」

お互いにかろうじて脚本や楽譜の解釈とその出演者や奏者の構成を調和させる役割として演出家と指揮者の必要性は理解したものの最後までわかり合えなかったのは何故舞台に立つかあるいは立たないかでした

立つ側(指揮者)の立場からいえば、最後を演者に丸投げする舞台の演出家の仕事は無責任に見えていたようです

一方で、立たない側(舞台演出家)の立場では、仕事が終わっている演出家が舞台にいる必要はないと思っていました。役者に全幅の信頼を置くからこそ、舞台を見守ることしか出来ないと

今でこそ、その友人のものも含め様々なオーケストラを(本当に稀だが)見る機会を得て、指揮者の役割を理解することができます

観客から最も注目される場所に身を置き、観客にではなく奏者に向き合い、舞台上にいながら、最前列の観客のように奏者に向き合いながら、音楽という見えない生物(ナマモノ)を統括し、制御し、引き出し、暴れさせる

まさに舞台上の指揮官であり全責任をその場で受け止める役割を担うのが指揮者です(だと思っています)

この話はそんな舞台上の指揮官と国の指揮官(政治家)が対立し、闘う物語でした

情報量の少ない舞台でした

登場人物には一人も名前がなく、都市名も国名ままったく出てきません

鍵十字が登場することで、時代と国は類推できますが、あの人さえも「首相」という呼称でのみ呼ばれています

この徹底した「情報統制」により背景を深く知る観客でもそうでない観客でも物語の中に深く入り込める構造になっていました

巧みな脚本による伏線の数々

上記の「情報統制」もさることながら、言葉の力を感じさせる台詞が多かったのも印象的でした

特に秀逸だとおもったのは、鍵十字の旗を舞台に掲げるよう命令する将校が、指揮者と以下のような会話をするシーン

指揮者「何か楽器の経験は?」

将校「子供の頃に少しバイオリンを…」

指揮者「君じゃないこの旗だ」

〜中略〜

指揮者「私は演奏しないものを舞台上に上げない」

このシーンシンプルに指揮者のユーモアと強い音楽への愛が語られるシーンですが、それが思わぬ所で終盤への伏線になっています

正直、このシーンだけでももう一度最後の伏線を意識して見直したいと感じさせる展開でした

役者のちからは、それほど感じることができず

初見の劇団だったせいか、存在感を感じさせる印象にのこる役者さんはいませんでした

ただし、事務局長役の小野ゆたかさんはひょうひょうとしたなかで、強さを見せていて共感させられました

芸術家という自分とは違う世界の住人たちの話の中で、彼が最も社会人としての自分に一番近いというのが理由かもしれない

勿論、小野ゆたかさんのハマり具合もよかったのですが

逆に音楽が邪魔になる

音楽が主役の芝居だが

どうしても生音の迫力に満たない音楽が逆に物語の登場人物たちを魅了するはずの化け物としての迫力に迫ることが出来ていないと感じることがありました

いっそ音楽が流れず俳優たちの表情と目線、行動だけで成立させたほうがよかったのではないかと思いました(いや、それで成立したかどうかは自信はありませんが)

ソロと集団の対立

国家と芸術という対立軸が中心の話でしたが、一方でソロ(個人)と団体(国家)の対立を描いた部分があったのは興味深いなと思いました

序盤で、ソリストからオーケストラの一員になることを選んだ皆上匠さんの演じるヴァイオリン奏者が、ヴェートーヴェンの第9のコンサートマスターをやれることを喜ぶシーンをちょっと複雑な思いで見ていました

というのも、なんか実力ある個人(世界中のどこに行っても通用する)が、自分の意思とはいえ集団に属しその集団の中で評価されて喜ぶという構造と、無理やりに国家に取り込まれながら、国家から高く評価される指揮者の姿に何か重なるものを感じたからです

考え過ぎのような気もしますが…

次回絶対来るぞ!!と勇んでいたら…

当日パンフには、次回公演予定について「少しお休みしてからお知らせします」とのこと

次の公演を楽しみにしながら脚本家の野木萌葱さんを追って行ければと思います(次は、新国立劇場らしい)

以上 パラドックス定数「Das Orchester」の感想記事でした

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