劇団 | TBスタジオ・クラブ | |||||
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題名 | 恋人 | |||||
公演期間 | 2019/07/25~2019/07/28 | |||||
作 |
ハロルド・ピンター | 演出 | 得丸伸二 | |||
出演者 |
阿南さとし:リチャード/マックス 河野惠理子:セアラ 中川晃:牛乳屋 ※上記キャストが今回見たバージョンだが、他の出演者は以下の通り |
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劇場 |
TBスタジオ(志茂)
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観劇日 | 2019/7/28(ソワレ) |
目次
ハロルド・ピンターの「恋人」とは
1963年のテレビドラマをその脚本を書いたピンター自身の手で舞台化した作品。半世紀以上前のイギリス社会において、夫公認の不貞を働く妻と妻公認で娼婦を買っているという奇妙な夫婦の話。
そのような状況にありながら、夫婦としての生活を持続しているというシチュエーションが不条理劇と呼ばれる所以かもしれない。
が、正直、現代の家族感や昨今のテレビで流れるワイドショーを見ていると、これが不条理ということは既にないように感じる
もちろん、会話の内容が意味深でどうとでもとれる会話も多く、不条理劇というスタイルであるのは間違いないが。
なお、演劇感想文リンクによれば、2011年にtptが、岡本健一さんと中嶋朋子さんで上演されています
... 恋人 The Lover(2011) | 演劇感想文リンク - 演劇感想文リンク |
一人3役の夫役は難役
このストーリーは、ほぼ2人芝居という感じで展開されます。(正確には3人出演者がいますが、ほんの一瞬しか出てこない)
その中でも、一際この物語を印象付けるのは、妻の不貞を認めつつ妻との生活を続ける物静かな会社務めのリチャードとその妻の不貞の相手である少し遊び人っぽいマックス、そしてそのマックスと妻の出会いのきっかけになったもっと柄の悪い男の3人を一人の役者が演じるという部分です
正直、この3人がうまく演じ分けられない限り、この物語を楽しく見ることはできないだろうなと見る前から思っていました(ハロルド・ピンターは、初見の脚本家だったため、上に書いた概略程度にこの舞台のことは予習して行きました)
最初のリチャードを演じている阿南さんは、演技も台詞も非常に直線的でギザギザな線をたどるような台詞回しで、あまり自然な感じの会話になっていませんでした
妻役の女優さんは自然に台詞を喋っているのに、朴訥というか滑らかさにかけるしゃべり方であったため、二人の台詞が噛み合わない感じがずっと続いていました
この時点では、僕の中ではこの朴訥な演技は後半で出てくるはずの2役目(遊び人マックス)の準備なんだろうと想像していました
すなわち、少し直線的すぎる台詞回しや演技は、後から出てくる不貞相手(昼間不貞ができるくらいだから、あまりまともな職業ではない設定であろうことは想像していましたし)と差をつけるのが目的であろうと思っていました
が、実は衣装を変え、出てきた不貞相手としてのマックスも、その前のリチャードのときと同じように直線的な台詞回しであることは変わりがありませんでした。
妻役は笑顔が増え、少しだけ艶めかしさがましていましたが、二人の情事の描写も、リチャードとマックスがほとんど変わり映えしないということもあり少々空々しく感じました
演技であまり印象が変えられないならば、いっそかつらなどを使ってでも無理やり違いを強調するという手もあったのではないかと思ってしまいました
妻役も魅力にかける
妻役は、一貫して同一の人物を演じるという意味では、夫役に比べると難役ではなかったと思いますが、魅力的であったとは言い難いものがありました
おそらく、元々の脚本はもう少し若いキャストが演じることを想定された脚本だったのだと思うので、無理からぬことかもしれませんが、妖艶さとか、恋人に会う時のウキウキ感があまり伝わってこない演技でした
恋人を出迎えようとして勇んでドアを開けたら、牛乳屋というあたりはうまくやれば笑いが取れるくらいの見せ場と思ったのですが、リアクションも少なく中途半端なものになってしまいました。
あそこしか出番のない「牛乳屋さん」役が可愛そうになってしまいました
夫とは打って変わって恋人に甘えるあたりも、どうにも気分がのっているようには見えず…
結果として二人共がモノローグを言い合っているような印象の舞台になっていたと思います
小さな劇場でありながら具象の舞台装置はよく出来ていた
30人ほどのキャパシティしかないTBスタジオをという劇場は、天井が低くなかなかに使うのに工夫がいりそうな劇場でしたが、流石にスタジオプロデュースの舞台というだけあって、劇場の使い方はうまいと思いました。
この規模の舞台で、これほど凝った装置というか調度の揃った舞台にであうとは思いませんでした
色々工夫の凝らされた脚本は面白かった
一組の夫婦の不貞の話でありながら、重層的な構造になっている脚本は短いながらよく出来ているなと思いました( ノーベル文学賞受賞者の脚本に上から目線ですが)
リチャードが、外で娼婦を買っているという前半部分で語られた話が、妻の不貞相手であるマックスが自分の妻に対してはこの不貞を妻には娼婦を買っているだけだと説明しているという話と符号し、一組の夫婦の話のはずが、見えないもう一人の妻やその夫が見えてくるという作りになっています
最後あたりは、お互いの不貞相手から決別を告げられた妻、そして告げた夫の二人が、夫婦から恋人に戻るシーンもよくねられていると感じました
この前後で、夫は激情を示すシーンがあり、見ていて「ここのために前半ずっと演技を抑え気味だったのか 」とか考えましたが、演出によるものだだったのかどうは、わかりませんでした。
ほぼ二人芝居という構成上、二人の台詞がなかなか会話として生きてこない舞台はなかなか話に入りこめず結果として1時間10分という上演時間に救われた感じでした
以上 TBスタジオ・クラブの「恋人」の劇評記事でした