劇団 | 劇団チョコレートケーキ | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
題名 | つきかげ | |||||
公演期間 | 2024年11月7日から2024年11月17日 | |||||
作 |
古川健 | 演出 | 日澤雄介 | |||
出演者 |
緒方晋:斎藤茂吉 浅井伸治:斎藤茂太(長男) 西尾友樹:斎藤宗吉(次男:後の北杜夫) 帯金ゆかり:宮尾百子 宇野愛海:斎藤昌子 岡本篤:山口茂吉 音無美紀子:斎藤輝子 |
|||||
劇場 | 駅前劇場(下北沢) | |||||
観劇日 | 2024年11月16日(マチネ) |
目次
斎藤茂吉とその家族を描く深いドラマ
老いた茂吉と輝子の関係
斎藤茂吉を演じた緒方晋さんは、老いと病に苦しむ茂吉の複雑な内面を見事に体現していました。一方、妻・輝子を演じた音無美紀子さんは、夫を献身的に支える母親像を繊細かつ力強く表現し、非常に印象的でした。
特に、奔放な性格を感じさせる輝子の言動と、茂吉を支える姿のギャップが心に残りました。歩くのもままならない茂吉に肩を貸す場面や、夜なべして看病する姿は、彼女の愛情の深さを象徴していました。私自身、昨年亡くした父の晩年に母が見せた献身的な姿を思い出し、妻が夫を思う気持ちに通じるものを感じました。
家族それぞれの個性と葛藤
長男・斎藤茂太の責任感
斎藤茂吉の長男・茂太を演じた浅井伸治さんは、精神科医としての責任感と家族全体を支える役割を見事に体現していました。茂太の堅実な性格は、父に対する敬愛と共に、弟妹たちとの間で調整役を果たす姿が印象的で、彼が家族の土台として機能している様子に共感を覚えました。
次男・斎藤宗吉の模索
次男の宗吉を演じた西尾友樹さんは、自己を模索する青年としての複雑な感情を繊細に表現していました。宗吉がヨーロッパへの旅立ちを決意する場面は、彼が家族から離れることで自分の人生を見つけようとする強い意志が伝わり、胸を打ちました。
敬語で家族と接する斎藤家の姿
舞台で描かれる斎藤家は、家族間で敬語を使って会話する場面が多く、私の経験とは異なるため、どこか他人行儀な印象を受けました。しかし、その距離感を保ちながらも、全員が父母を強く敬愛している様子は、非常に理想的で羨ましくもありました。一方で、茂吉のわがままな言動には「自分の父親だったら困る」と感じる瞬間もあり、思わず苦笑してしまいました(笑)。
キャスティングと舞台の魅力
村井國夫さん降板による偶然の座組
本作では、斎藤茂吉を緒方晋さんが、妻・輝子を音無美紀子さんが演じる形となりました。背景には、劇団チョコレートケーキの前作『白山』において、村井國夫さんが病気で斎藤茂吉役を降板し、緒方さんが代役を務めた経緯があります。今作では村井さんの妻である音無美紀子さんが輝子役に配されましたが、個人的には村井さんが斎藤茂吉役をされていたら、このキャスティングは実現されなかったのではないかと思いました。
もし村井さんが『つきかげ』で斎藤茂吉を演じていた場合、実際の夫婦が舞台上でも夫婦を演じることとなり、また別の魅力が生まれていたかもしれません。しかし、音無さんのキャスティングによる今回の舞台も非常に完成度が高く、素晴らしいものでした。なお、このキャスティングに関する詳細は私の推測の域を出ませんが、結果的に特別な化学反応を生んだ舞台であったことは間違いありません。
感想を通じて考えたこと
この舞台を観ることで、晩年の生き方や家族との接し方について深く考えるきっかけを得ました。父を亡くし、自分自身もそろそろ老年に差し掛かる中で、家族との関係やこれからの生き方を見直す良い機会となりました。本作で描かれる斎藤家のように、時に葛藤を抱えながらもお互いを敬愛し支え合う関係は、私にとって理想的な家族の姿でした。
まとめ
『つきかげ』は、斎藤茂吉の最晩年を題材に、家族の葛藤や愛情を鮮やかに描いた作品でした。音無美紀子さんをはじめとしたキャスト陣の熱演が光り、心に残る舞台となりました。観劇を通じて、家族とは何か、晩年をどう生きるべきかについて改めて考えるきっかけを得られたことに感謝しています。