映画の予告編で、映画化されたのを知り興味を持ち、原作に当たりました
案に相違して、コメディといった筆致ではなく(確かに笑えるのですが、なんか冷めた笑いというか、背筋がゾッとする笑いというか…)色々考えさせられる本でした。
目次
■こんな本がドイツで出版され、ベストセラーになるのが驚き。
ドイツでこんな本が出版できてるのが少しビックリです。「我が闘争」が、70年の著作権保護期間切れにより、再販なんてニュースもありましたが、ヒトラーについてのドイツ世論はまだ色々あるはず。そのヒトラーが現在にタイムスリップしてくるという話が、ドイツでどのように受け止められているのか、興味がありました(ベストセラーというのは、映画の煽りかもしれませんが、ある程度は受け入れられたのだと思いますし)
■面白いけど、ちょっと肩透かし?
内容は、面白かったのですが、最後はちょっとだけ期待はずれでした。物語としてはもう少し先まで読みたかった感じなんですが、なんか色々と想像が膨らむような結末で、尻切れとんぼ感がいっぱいでした
全編、ヒトラーの独白というか、一人称で語られる物語は、可笑しいと言うよりも考えさせられる部分の方が多かったように思います
小説は一種のブラックユーモアとして描かれているのだと思いますが、ドイツの事情がある程度わかったり、ヒトラーの足跡を日本の高校生の世界史の授業レベルよりもう一二段踏み込んだ知識を持っていないと楽しめないと思える表現が多々ありました。
面白さとして分かるのは、ヒトラーと周りにいる人たちの見事なまでの会話の掛け違いで、そのへんのやり取りでくすりと笑うシーンはやはり多くありました
その辺コメディとしては外してはいないかな。
■ヒトラーが、思った以上に現代社会に適応しながら、70年前の人の視点で現代を分析する様は、面白いところでした。
確かに今のように誰もがスマホに時間を奪われる様は滑稽に見えるだろうし、彼の怒りや不満の矛先が向かうのもよくわかりました
■これを読んでいると、ヒトラーは愛すべき愛国者だなぁとつくづくかんじました。
ユダヤ人についての信念も、何かボタンがかけちがっているだけで、彼の怒りの根底にあるのはユダヤ人という人種への憎しみではなく、格差社会に苦しむドイツ人への愛情なのだと感じました。
民族というものへの過剰な拘りが、ものの本質を見極めにくくさせているが、ユダヤ人を資本家と見立てれば、彼の思考は左翼的です。
だからこそ、ネオナチとは反目し、緑の党と協調を模索するという展開も、納得いくものでした。
この辺の彼の思想が、この小説の作者の想像の産物なのか、彼の様々な著作や演説ですでに語られていることなのかよくわかりませんが、恐らく後者なのだろうと思います
こう言う人というか、こう言う主張をする人だからこそ、ワイマール憲法下において民衆の圧倒的な支持を得れたのかなと合点がいく部分もありました。
■読んでる途中で何度も、現代のアメリカ大統領戦のトランプ候補を思い浮かべました
貧しい自国民の一部の民衆のみに媚びて、それ以外の民族や近隣諸国にその責を帰す手法は、ヒトラーそっくりなんだなと感じました
アメリカの国民が、冷静になり、ナチスの蛮行のような暴走がありませんようにと、祈るばかりです。