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■J.P.ホーガンの1983年の作品 昔の未来世界の楽しみ方
未だソ連が健在な時代なので、当時の西側東側の対立がそのまま未来世界に当てはめられているのは、ほのぼのします。
アジアも、ほぼ名前が出てくるのは日本のみ。
ホーガンは、科学技術に長けており、インターネットっぽいものさえも予言していたのですが、さすがに21世紀の世界情勢にソ連がいなくなるとは想像できなかったようです。
ソ連を出し抜くために大掛かりな火星旅行に擬して、タイタン行きの大型宇宙船を発射させたなんてあたり、1970年台の宇宙開発競争がそのまま21世紀にまで続いている感じです。
世界情勢を予想するのは、そのくらい難しいものなんでしょうね。(「昔の未来世界」って変な言葉ですが、最近、こういう過去のSF作品で予言された未来と現在の状況をひきくらべることで、未来予想の難しさを実感しつつあります。)
■太陽系内でのファーストコンタクトもの。
太陽系内でのファーストコンタクトものの作品は、大概向こうの科学技術がすごくて、こっちは教えてもらう側なのに、この作品では逆。
何故、太陽系内の星タイタンに、人類より劣った文明社会が出来るかという序盤が、このはなしの真骨頂。正直、この序章(100万年前に、タイタンにやってきた無人異星船が作り出した機械工場が暴走し、少しづつ生命形態へと変わっていく様)のエキサイティングな設定に最後まで引っ張られたと思います。
■宗教の起源へのユーモア
機械の生命が、形づくる社会が、中世のヨーロッパを思わせる絶対王政と宗教に支配された世界。
そこで、異端とされるものたちが作り上げる新興国の発展。
機械が作る世界にしては恐ろしく人間くさい世界観は読みやすさが抜群です
そこに現れる人類は彼らにとってはやはり、神に近いもので、人類があまり深く考えずに、モーゼと名付けた機械生命体に対して十戒のような戒律を与えてしまうシーンはニヤニヤしながら読んでしまいました。
万全とはいえない異星語と英語の翻訳器は、そんな大それたことを伝えたばっかりに、他愛もない会話が神からの啓示にかわっていきます。
序章でも語られる通り、彼らは明らかに造物主(ライフメーカー)がいる訳で、その彼らがもっている信仰が、中世の人類の宗教の教義に近いのは、何か人類や地球生命の由来についても、考えさせられてしまいます。
■ペテン師が、主役?
タイタンで発見された機械生物(タロイド)とのファーストコンタクトに際して、NATOを思わせる西側諸国の中枢部が、心霊霊媒師を紛れ込ませるというアイデアも面白かったです。
この物語の主役は、科学者でも軍人でもなく、その心霊霊媒師だというのに最初は意味がわかりませんでした。
ハードSF作家であるホーガンは、当然ながら、こういう手合いには懐疑的で、彼らがペテン師として、いかに優秀かを描写することで、世の中にはびこるこういった手合いを盲目的に信じる人たちへの警鐘を鳴らします
その一方で、彼を主役においているのは、そういう心霊霊媒師を、演じる彼こそが、人間の性も含めてのあらゆるリアルに対して柔軟に対応できる人であるというホーガンの想いがこもっていたようにおもいます
事実、終盤の彼の活躍はホーガンの面目躍如たる活躍により、軍人や政治家といった真っ当な人々が考える原住民の隷属化の試みを見事なまでに粉砕します
ちょっと、例としてはズレるかもですが、ラリー・ニーブンとジェリー・パーネルの共作「降伏の儀式」で、SF作家が、対異星人対策のスペシャリストとして、アメリカ政府に招集されて大活躍したのとちょっと似てる演出だなと思いました。
続編も楽しみ
最後に思わせぶりな伏線があり、本物の造物主(ライフメーカー)の登場が期待されます。と思ったらやはり続編もあるようす。
読んだら、また感想を書こうと思います。