[劇評]バター猫のパラドックス「二進法の彼女」@てあとるらぼう

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小さな劇場でありながら、プロジェクションマッピングをバリバリに使う舞台。AIをテーマにした恋愛物。割りとありきたりだし、恋愛物は苦手だしとか思っていたのに、ラスト近くのシーンにはグッときてしまった。新しいタイプの芝居なのかなぁと感じました。

劇団 バター猫のパラドックス
題名
公演期間 2016/09/082016/09/11
作/演出 石戸浩太朗
出演 三浦圭佑尾崎真花平井夏貴謝花弘規小山分季陽古里友美神田桃果鹿野裕介新路恭平実巳出原美佳いしはらだいすけ
劇場
てあとるらぼう(東長崎)
観劇日 2016年9月11日(マチネ)

目次

物語

今よりも少し未来。AIにより、自動運転や監視社会は実現されつつも、会社の仕事やオフィスの掃除は人間がやっている世界。気の弱さのあまり、会社でも色々な仕事(中には不正なものも含め)を押し付けられ、仕事場にもプライベートにも味方が居なくて、自殺願望を持つ青年が、仮想空間上に自分の理想の彼女を持つ。彼女との生活で、自信を取り戻し仕事にもやりがいを感じ始めた彼は、理想の彼女の変化に気づく…

感想

■珍しくない設定の普通の恋愛物

昨今、またAIブームが来ていることからAIをテーマにした舞台や映画、小説って多くなってきている気がしますが、その中でも恋愛物がセットになっている例は多いように思います。

題名と舞台の紹介を見た時に感じた印象は、珍しくない設定の恋愛ものというものでした。というわけで、実はあまり期待せずに劇場に足を運びました。

 

■甘い恋愛物という思いは裏切られました

仮想空間に理想の彼女を持つオタク男とのあまあまの恋愛物かと思って見始めましたが、主人公は予想以上にネガティブな青年だったおかげで、甘々になるようすはなく、青年のどん底の感情の発露から始まる恋路の物語はそれなりに面白く見ることができました。このくらい、ネガティブでダメな人じゃないと、AIの彼女という非現実的な存在との釣り合いが取れないかもしれません。

また、この青年を演じた三浦さんは、序盤のダメダメから終盤の割りとまともな人に成長していく過程がとてもはっきり演じ分けられていて、感情の追いやすい役者さんだったことも物語にのりやすい理由だったと思います。

■サスペンス色のある展開、でも最後は恋愛ものに。

やがて感情を持ち、暴走する彼女に気づく刑事や、AIを支配しようとする企業の登場により途中一瞬サスペンス色のある展開になっていったのも、(後から考えると変ですが)わりとすんなり受け入れる事ができました。他の芝居だとなんか取ってつけたようなエピソードになって浮く事が多いのですが….

それでも、最後は恋愛物として感情を持った(暴走した)AI彼女とその彼女を思う青年の二人の恋愛物語の決着(別れ)として終わったのにはちょっとホッとしたというか肩透かしを食らったというか….それでも、ここの二人の会話のシーンはジーンと来ました。あんまり恋愛物語で心揺さぶられることがない自分ですが、こんな気持ちになれたのは、ロミオとジュリエットを見ていらいかもしれません(別にこの物語は、ロミオとジュリエットに似ていません)

 

■プロジェクションマッピングの多用の効果

過去に見た舞台の中でも、これほどプロジェクションマッピングを多用しているのは初めてです。当初は、プロジェクションマッピングの使いすぎじゃないかと、ちょっと顔をしかめていたのですが、そのうち気にならなくなりました。

プロジェクションマッピング自体最近の技術で、使いこなすのに技術が必要であるがゆえに、他の芝居ではそれこそ「ここぞ」という場面で使われていたのですが、この芝居では、それこそ音響効果や照明効果と同じような手軽さで使われていたように思います。

心象風景的なシーンや、雰囲気を変えたい時に照明や音響でやっていた効果を、一部プロジェクションマッピングが担っている印象です。観客にしてみれば、それがプロジェクションマッピングでも、照明でも音響でも効果があれば受け入れられるのではないかと感じました。

新しいカタチの演劇なのかなぁと思いながらみていました。(物語がプロジェクションマッピングを使いやすい(仮想世界と現実世界の行き来)ものだったこともあると思いますが)

映像もやっているカンパニーのようですし、こういう新技術を多用した舞台また見てみたいです。

 

<追伸>

この舞台を観て、連想したのは山本弘の「アイの物語」だった。AIと人間との恋愛というキーワードが一緒ではあるものの、改めて読み直し始めて大分違うことにも気づいた。(昔読んだのは古本屋に売ったのでまた買い直した)

 

 

 

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